車が静かに動き出す。
フロントガラス越しに差し込む陽の光が、街並みを淡く照らしていた。
澄んだ空気が車内にも流れ込み、どこか新しい一日の始まりを感じさせる。
「…あのー。」
「ん?」
彼は前を向いたまま、落ち着いた声で返す。
「プロのバレエダンサーなんですよね?」
「ん。一応ね。」
信号で止まったとき、彼がちらりとこちらを見る。
その瞳は、陽の光を受けてきらりと輝いた。
「普段は海外に?」
「うん。フランスにいることが多いかな。」
「今回は日本公演があるから帰ってきた…ってこと?」
「そう、まだ先だけど日本公演の予定があって帰国した。」
淡々としているのに、どこか凛とした響き。
「へぇー、すごい。
ってか、運転できるの?」
「まあ。
自分で言うのもなんだけど、要領よくて大抵のことはすぐできるから。」
彼はさらりと言う。
誇張も照れもなく、ただ事実として。
「すごいサラッと自慢するじゃん。」
「事実だからね。」
「へぇ、生意気な年下だ。」
「どうも。」
彼が小さく笑う。
そんなやり取りをしているうちに、車は美術館近くの有料駐車場へと滑り込む。

