彼は魅惑のバレリーノ

『ろくな服がないわね。』

「ひどい。」

『この中ならそのライトグリーンのワンピースね。
あと髪型はハーフアップ。』

「わかりました。
ちょっとあざとくない?」

『美術館デートでしょ?
清楚系がいいわよ』

「そう?」

『そうよ。
あと靴も見せて、カバンも。』

「はーい。」

スマホを持ち、玄関に散らばった靴に向ける。

『そこのシルバーのパンプスね!
次!カバン。』

「はーい。」

私はリビングに戻りスマホを向ける。

『全部大きいわね。』

「だいたいスケッチブック入るやつにしてるからさ。」

『持って行くんじゃないわよ?』

「え?」

『え、じゃないわ!
それで彼氏に振られてるんでしょ?
そこのショルダーバッグね!』

「はーい。」

『ねぇ、あとでちゃんと聞かせてよ。』

「はいはい。」

『あ、彼氏帰ってきたみたい! じゃあね!』

ぶちっ。

……切るの早いな。

でも、服が決まってよかった。
鏡にワンピースをあててみる。
少しだけ胸が高鳴る。

——でもこれ、デートではないよな。

ただ目的地に一緒に行くだけ。
まだ知り合って間もないし。

……うん、落ち着け。
期待するな。

そう言い聞かせるのに、
胸の奥はじんわり熱くて、
どうしても“明日”のことを考えてしまう。

柊くんの横顔。
淡白なのに優しい声。
無自覚に距離を詰めてくるあの感じ。

……いや、やっぱり無理。
絶対ドキドキする。

ベッドに倒れ込みながら、
私は枕に顔を埋めた。