彼は魅惑のバレリーノ


「そっち。ちょっとちょうだい。」

「うん、いいよー。」

スプーンですくって差し出した瞬間——
あ、これ違う。
“自分のスプーンで食べさせる”ってやつじゃん。

そう思ったときにはもう遅くて。

柊くんは、
私の手からそのままスプーンを受け取るようにして、
ゼリーを口に運んだ。

近い。
近い。
近い。

石鹸の香りがふわっと鼻先をかすめて、
心臓が跳ねる。

「紅茶の香りと爽やかな甘さで、こっちも美味しいな。」

淡々とした声。
本当にただの“味の感想”みたいに言う。

「え、あ、そうだよねー!!」

声が裏返る。
この人……無自覚!?
いや絶対無自覚だ。

「こっちも食べる?」

今度は柊くんが自分のスプーンを差し出してくる。

その距離、
その自然さ、
その顔の良さ。

心臓に悪い。

「いや、大丈夫!ほんとお腹いっぱい。」

色んな意味で。

「そう。」

気にした様子もなく、
柊くんはまたゼリーをすくって口に運ぶ。

その喉が静かに動くのを、
つい目で追ってしまう。

淡白なのに、
距離感だけは妙に近い。

——これ、慣れたらダメになるやつだ。