彼は魅惑のバレリーノ


「こんばんはー!!」

「どうも。」

玄関を開けた瞬間、
柊くんの部屋の空気がふわっと流れ込んでくる。
柔らかい照明と、ほのかな柔軟剤の匂い。
なんだか落ち着く。

「はいどうぞ!」

差し出した袋を見て、柊くんが片眉を上げる。

「何もいらないって言ったんだけど。」

「デザートにっと思って…
フルーツゼリー。駅前のおいしいやつ!
あ、もしかしてカロリー高い!?」

「いや、平気。ありがとう。」

ふっと、ほんの一瞬だけ口元が緩む。
淡白なのに、その一瞬が妙に優しい。

「どうする?先食べる?」

「いや、後でもいいよ。
お腹いっぱいだと踊れなくない?」

「それもそうだ。
じゃあ始めるよ。」

「はい!」

私は画材道具を広げる。
今日はいつもより荷物が多い。

「なんか。今日は大荷物だと思ったけど…」

「色鉛筆も使おうかなと。」

「へぇ。普段は絵の具とかも使ったりするの?」

「そうだね。
水彩画も描くよ。」

「へぇ。」

ストレッチしながら、
柊くんはちらっとこちらを見る。
その視線は淡々としてるのに、
どこか興味を隠しきれていない。

「もしかして、絵に興味ある?」

何気なく聞いたつもりだったのに、
言った瞬間、胸が少しだけ跳ねた。

柊くんは足首を回しながら、
短く息を吐く。

「……興味ないわけじゃないよ。」

淡々とした声。
でも、その言い方はどこか照れているようにも聞こえた。