彼は魅惑のバレリーノ

「あら、残念」

亜季が肩をすくめる。
その横で、私はチケットを指先で軽く弾いた。
光沢紙がふわっと揺れて、なんだか行き先を迷っているみたいだ。

「みんなリア充してるなぁー。
じゃあ私は一人で行ってくるかな!」

「本当予定なかったら行きたかったんだけど。」

「いいよ!無理しなくてさ!
深山の彼女にも悪いだろうし。」

「俺、彼女いないんだけど。」

はは、と笑う深山。
その笑い方が爽やかだ。

「え!?いないの?」

「うん、いまはね。」

「はぁー。でももう順番待ちの子がいそうね。」

亜季が言うと、深山は苦笑い。
その横顔は、確かに“モテる男”のそれだった。

……彼。
柊くんも、モテるんだろうな。
柔らかそうな淡い茶色の髪。端正な顔立ち。


「如月は?いないの?」

ついに矛先がこちらへ。

「いないよー。いると思う?」

「ずっと?」

「もう随分前だよ。大学のときだから…。」

「絵を描くのに夢中になりすぎて、振られたのよね。」

「ちょっと。」

「デートしてたのにさ、公園からニ時間動かなかったのよ、この子。
ヤバくない?」

「はは、らしいな。」

深山が笑う。
その笑い方が優しい。

「だってさ!
公園にさ!素敵な小鳥がいたんだよ。
描くしかなくない!?」

そう言った私に、二人はそろって苦笑い。
でも、深山はふっと目を細めた。

「まあ…好きなことに夢中になれるのは、いいことだと思うけどな。」

その一言が、妙に胸に残った。