彼は魅惑のバレリーノ

私は柊くんを追ってフランスにやって来た。
本当はマリアさんも連れて来たかったけど、海外の生活は大変だから、私の兄が柊くんがいた家に面倒を見に行くようになった。
マリアさんが割と懐いてるんだよな。


フランスでの公演もすごい人気で、
舞台の上の彼はさらに磨きがかかっていた。

——柊くん、ずっと頑張ってたんだな。

「どうだった?」

「すごい良かったよ。
一段と輝きが増してた。かっこよすぎ。」

「なら良かった。」

ふっと安心したように笑うその顔が、
舞台のときとは違う、私だけが知っている表情で胸が温かくなる。

そして私たちは、
私の絵が飾られている美術館へ向かった。

展示室の奥、柔らかな照明に照らされて、
一枚の絵が静かに佇んでいる。

タイトルは——
『彼は魅惑のバレリーノ』

その文字を見た瞬間、
柊くんは少し照れたように、でもどこか誇らしげに微笑んだ。

絵の中の彼は、花が咲き誇る舞台の上で、
蝶のような羽を背に、軽やかに踊る。
舞い散る花びらの中、月が彼を優しく照らした姿。

「綺麗だね。
やっぱり一華さんが描く絵は素敵だよ。」

「ありがとう。」

「でも……俺にとって魅惑的なのは、一華さんだね。」

「……恥ずかしい。」

頬が熱くなる。
けれどその温度は、嫌じゃない。
胸の奥がじんわりと満たされていく。

「ねぇ、今度こそ……」

「ん?」

柊くんが私の手をそっと握った。
その温もりに、心臓が跳ねる。

「俺と結婚しよう。」

「え……?」

「俺は一華さんを愛してる。
離れても変わらなかった。
むしろ、どんどん愛おしくなっていった。」

決意を宿した瞳が、真っ直ぐに私を見つめる。

「ねぇ……絶対幸せにする。
だから、俺だけのものになってくれる?
一華。」

呼び捨てにされた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。

迷わない。
迷う理由なんて、もうどこにもない。

「……はい。
私も柊が大好き。
柊も……私だけの人でいてほしい。」

涙がにじむ。
でもそれは悲しみじゃなくて、
未来があまりにも眩しいから。

私の世界を色鮮やかに変えた——
そう、彼は魅惑のバレリーノ。

そして今日、
その誓いは私の“未来”になった。



完結。