彼は魅惑のバレリーノ


「ねぇー、お兄と何話してたの?」

シャワーでさっぱりした私は、まだ少しふらつく足取りで柊くんに近づいた。
髪から落ちる水滴が、ひんやりと首筋を伝う。

「ん? 一華さんが大好きですって言っといたよ。」

「なにそれ。」

思わず顔が熱くなる。
酔いのせいじゃない。絶対に。

「そうだ、太一さんの連絡先、俺にも教えて。」

「えーなんで。まあいいけど。」

スマホを渡すと、柊くんが画面を覗き込む。
その横顔が妙に真剣で、胸がざわつく。

「……鬼?」

「うん。お兄と“鬼”をかけてるんだよ。
昔めちゃくちゃ意地悪されて、憎しみから。」

思い出しただけでムカつく。
でも——

「……昔意地悪してきた男の子が、私が描いてた絵を破いたことがあったの。
そしたらお兄は、それをした奴をボコボコにしてた。こっちが引くくらい。」

あのときの光景が、ふっと胸に蘇る。

「でもお兄は…一度も私の絵を馬鹿にしなかったな。
いつも“すごいな”って言ってた。」

ぽつりとこぼすと、柊くんがふっと笑った。

「へぇー。優しいお兄さんだね。
お兄さん、一華さんのこと大好きだよ。」

「えー。」

そんなわけ……あるのかな。
でも、胸の奥がじんわりあたたかくなる。

「あ、でも俺には負けるけどね。」

ふわっと笑う柊くん。
その笑顔がずるいくらい優しくて、心臓が跳ねた。

気づいたら、私はぎゅっと抱きついていた。
酔っているからということにして…。

「私も大好き。
柊くんへの気持ちは誰にも負けない。」

「うん、ありがとう。」

柊くんの手が、そっと背中に回る。
その温度に、全身がゆるむ。

「……あ、でも一華さん。
ちょっと酔いすぎだよ。今後お酒控えてね。ほんとに。」

「えー。」

「えー、じゃない。
そんな可愛くて無防備な姿…誰にも見せないで。」

少し困ったように笑うその顔が、
どうしようもなく愛しくて、胸がぎゅっとなった。