彼は魅惑のバレリーノ

一華side

はー、吐いたからスッキリした。
シャワーも浴びてさっぱり。
あの気持ち悪さが嘘みたい。

何やら兄が柊くんと話していたようだけど……
変なこと言ってないだろうな。
あの兄、余計なこと言うから油断できない。

リビングに戻ると、兄が立ち上がったところだった。

「じゃあ俺は帰るから。
お前…実家たまには帰ってこいってさ。
部屋片付けろって言ってたぞ。
老後のためにリフォームするんだと。」

「え!? そうなの?」

初耳なんだけど。
兄は肩をすくめる。

その横で、柊くんが何かを差し出した。

「太一さん、良かったらこれ。
来月の日本公演のチケットです。
時間が合えば観に来てください。」

「お、さんきゅ。
絶対いく。」

兄が嬉しそうにチケットを受け取る。

「えー! ずるい。私もらってないのにぃ。」

思わず柊くんの腕を揺らす。

「一華さんのはちゃんとあるから大丈夫だよ。」

「やったー。」

兄がふっと笑い、私の頭に手を置いた。

「じゃあ仲良くな。」

「重い。」

でもその手の重さが、なんだか優しかった。

「あんまり柊に迷惑かけるなよ。」

「わかってるよ。ってか呼び捨てなの!?」

「ああ、もう仲良しだからな。」

ニヤリと笑う。

「また、ゆっくり遊びに来てください。」

柊くんは穏やかに微笑み丁寧に頭を下げる。

「おう。」

兄は軽く手を振り、そのまま玄関へ向かっていった。
ドアが閉まる音がして、部屋に静けさが戻る。