彼は魅惑のバレリーノ

「まじ?」

兄は本気で驚いたように目をまんまるにした。

「あ、えっと。
俺は如月 太一。こいつの兄。」

さらっと名乗るその声に、胸の奥がざわつく。
二つ上の兄。
昔からお菓子は一人占めするし、ダンゴムシをポケットに入れられたり、散々いじめられた記憶が蘇る。

「あ、そうだったんですね。」

柊くんは丁寧に頭を下げる。
深山はぽかんとしたまま固まっていた。

柊くんが私の顔を覗き込む。

「本当、一華さん?」

「うん…くそ兄貴。」

「お前なあ!」

兄が一気に詰め寄ってくる。

「人が心配して来てやればなんだその態度は。
あとなんでアパート解約したなら言わないんだよ。
今どこいんだ?」

酔ってる頭には、その声が刺さる。

「えっと…とりあえず車近くにあるので、うちで話しませんか?」

柊くんが落ち着いた声で提案する。
その穏やかさが、場の空気をすっと整えた。

兄が眉をひそめる。

「まさか、一緒に住んでるのか?」

「はい。
挨拶が遅くなり申し訳ありません。」

柊くんは柔らかく微笑む。
その笑顔は、相手を安心させる力がある。

「じゃあ俺はこれで失礼します。」

深山が静かに立ち上がる。

「ああ、悪いな。爽やかくん。」

兄がひらりと手を振る。
深山は丁寧に頭を下げ、夜の街へと歩いていった。