彼は魅惑のバレリーノ

深山に連れられて店の外へ出る。
夜風がひんやりしていて、火照った頬に気持ちいい。
店先のベンチに腰を下ろすと、ふわっと風が髪を揺らした。

「いた、おい。」

低い声がして顔を上げる。

「うわ。」

街灯の下に立つ“鬼”は、黒い髪をきっちりセンター分けにして、
鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
スーツ姿で、無駄にスタイルがいい。
こんな口悪いのに、意外とモテるんだよな。
……むかつく。

「お前な。飲み過ぎだろ。」

「来てなんて頼んでませんけどぉ!」

「……ああん?」

睨まれた。こわい。

「あの、同僚の深山です。」

深山がすっと姿勢を正し、丁寧に頭を下げる。
その礼儀正しさが、場の空気を一瞬だけ引き締めた。

「ああ、電話の。
迷惑かけたな。……おい、帰るぞ。」

私の腕を掴む。

「いやぁ! まだのむぅ。」

「このばか。」

「……あ、やっぱ無理。吐きそう。」

「ふざけんな。
このスーツ高いんだからな。絶対吐くなよ。」

そのとき——

「一華さん!」

少し焦ったような声がして振り向く。
淡い茶色の髪が夜風に揺れ、街灯の光を受けて柔らかく光る。
息を切らしながら駆け寄ってくる姿は、まるで絵本の王子様みたいだ。

「あっ、柊くんだあ。」

へにゃりと笑うと、柊くんはさらに心配そうに近づいてきた。