彼は魅惑のバレリーノ

踊り終えた柊くんは、呼吸を整えながら念入りにストレッチをして、
最後にすっと立ち上がった。

「はい、おわり。」

タオルで汗を拭きながら、ちらっと私のスケッチブックを覗き込んでくる。

「良い感じでしたよ!
まるで蝶々みたいでした!
柊くんのところだけ重力ないみたいで、
羽みたいに軽やかで!
人ってあんなに優雅に踊れるんですね!
すごい!!」

勢いよくまくし立てると、柊くんは少しだけ目を細めた。

「素直な感想ありがとう。」

「いえ!」

胸が熱くて、言葉が止まらない。

「それにしても…上手だな。」

スケッチブックを見つめる横顔は、さっきまでの厳しい表情とは違っていた。
まつ毛が伏せられ、影が頬に落ちる。
その静かな横顔に、思わず息をのむ。

「ありがとうございます!
なーんか足りないですよね。
でも今日刺激をもらえたので、創作意欲湧いてきましたよ!」

鉛筆を握る手が、さっきよりずっと軽い。
胸の奥がじんわり熱くて、久しぶりに“描きたい”が溢れてくる。

柊くんはタオルを肩にかけたまま、
少しだけ口元をゆるめた。

その笑みが、今日いちばん心臓に悪かった。