彼は魅惑のバレリーノ


「みやまだぁー。」

ふわふわした頭で名前を呼ぶと、深山がじっとこちらを見る。

「酔ってるな。」

「みやまのおかげで今回うまくいったよー。ありがとうー。」

気持ちが溢れて、思わず深く頭を下げる。
視界がゆらゆら揺れて、店の灯りが滲んだ。

「いや、あれは如月のおかげだろ。
みんなデザイン褒めてたよ。」

「そんなことないよ〜。
深山が団員の人たちと直接話してくれたから、いいパンフレットになったんだよ。
さすがだよー。」

「当たり前のことだよ。」

その言い方があまりに自然だ。深山らしいな。

「ううん、深山だからだよ。
団員の人たちが気持ちよく話してくれたのはさ。
私にはできないなぁ。」

そう言うと、深山の表情がふっと変わった。
いつもの落ち着いた顔の奥に、何か言いたげな影が差す。

「…なあ、如月。」

「ん?」

「もし、俺が先に言ってたら…こっち向いてくれた?」

「ん? なんの話?」

酔いのせいか、言葉の意味がすぐに掴めない。
深山は一瞬だけ目を伏せ、何かを飲み込むように息を吐いた。

そのとき——

ブルルルルル…。

テーブルの上でスマホがけたたましく震える。
空気が一気に現実に引き戻された。

「…いや、悪い。
忘れてくれ。卑怯だな、俺。」

深山は苦笑しながら視線をそらす。

「電話なってる。
あの、かっこいい彼氏じゃないか?」

わざと軽く言ったその声の奥に、
ほんの少しだけ滲むものがあった。