「オコジョって山の妖精って言われてるんですよ。
冬になると真っ白で見た目も可愛くて、
滅多に見られないらしいですけどね。」
天音さんが少しだけ瞬きをする。
「あと、可愛い見た目なのに運動能力は抜群で、
すばやく走るのが得意なんですよ。
獲物をどこまでも追って木に登るし、
ネズミを捕まえるために雪の中にトンネル掘ったり、
泳ぐこともできるんです。」
「へぇ。すごいのね。」
その声は、さっきよりほんの少し柔らかい。
「一度獲物を狙うと、捕まえるまで追い続けるらしいんです。
食べられる側からすると怖いですよね。」
私はスケッチブックにサラサラっとイラストを描き足す。
「結局バカにしてない?」
天音さんが眉を寄せる。
私は首を横に振って、まっすぐ言う。
「何が言いたいかっていうと……
天音さんもすごいって言いたいんです。
努力し続けて、彼の隣に堂々と立っててすごく…かっこいいです。」
にこっと笑うと、
天音さんは“ぐっ”と何かを飲み込むように横を向いた。
その横顔は、
怒っているというより、
褒められ慣れていない人がどう反応していいか分からない、
そんな不器用な照れがにじんでいた。
指先がそっとスカートの裾をつまむ。
その仕草が、ほんの少しだけ弱さを見せていて——
胸がきゅっとなる。
天音さんは小さく息を吐き、
ぽつりとつぶやいた。
「……そんなふうに言われたの、初めてよ。」
その声は、
強がりと寂しさと、
ほんの少しの救われた気持ちが混ざっていた。

