彼は魅惑のバレリーノ


「私、言ったわよね。
貴女とは住む世界が違うって……」

天音さんの声は、張りつめた糸みたいにまっすぐだった。

「柊は、特別なの。
あんなにすごい人が、貴女みたいな人といるなんておかしい。」

胸の奥がちくりと痛む。
でも、言い返す言葉は浮かばない。

「彼は食事にも人一倍気を遣ってた。
なのに、あんな甘い飲み物……
彼に飲ませるなんて。」

——飲んだのは柊くんだけどね。
そう思いながらも、私は黙って天音さんを見つめる。

「私は、柊がバレエが一番大切だって知ってた。
だから食事も生活リズムも、邪魔しないようにすごく気を遣ってたの。」

その言葉には、
“元カノ”という肩書き以上の重さがあった。

「なのに、あなたはなんなの!?」

声が少しだけ上ずる。

「えっと……」

言葉が出ない。
責められているというより、
“積み上げてきたものを奪われた”と感じている人の痛みが
そのままぶつかってくる。

「ズカズカと柊の部屋にいて……しかも。
なんであんなに優しくされてるのよ。
貴女みたいなパッと出の女に。」

“パッと出”
その言葉が胸に刺さる。

天音さんは唇を噛みしめ、
それでも続けた。

「私はずっと好きだったのよ。
彼の隣にいるために努力してきた。
甘いものだって我慢した。
プロとして、
彼の隣に相応しい人になるために。」

その目には、
嫉妬だけじゃなく、
悔しさと、悲しさと、
どうしようもない愛情が混ざっていた。