彼は魅惑のバレリーノ

仕事帰り——

会社の前で、まさかの人物に出会う。

天音さん。

綺麗に巻かれた髪、上品なワンピース。

「如月さんよね?
少し話せる?」

胸の奥がざわっとする。

住む世界が違う、と言った人。
“ちょっかいをかけるな”と釘を刺した人。
そして——柊くんの元カノで
同じ舞台に立つ相手役。

その彼女の前で、私はいま柊くんと恋人同士。

……言いたいこと、あるよね。

はあ、と小さくため息をつき、

「はい。」

と返事をした。

近くのカフェに入り、向かい合って座る。

店内は落ち着いていて、
コーヒーの香りだけが静かに漂っていた。

天音さんはまっすぐこちらを見つめている。

その視線は、
怒りなのか嫉妬なのか…
どこか“覚悟”のようなものが混ざっていた。

テーブルの下で指先が自然と強く握られる。

天音さんがゆっくり口を開いた。

「如月さん、
あなたに……どうしても言っておきたいことがあるの。」

声は震えていない。
でも、張りつめた空気。