彼は魅惑のバレリーノ


「あの、邪魔しちゃった?」

「ううん、大丈夫。」

「なんて?」

「より戻したいって。」

「え?」

「断ったよ。もちろん。」

「あ、本当に。
っていうか誤魔化さないんだね。」

「だって、本当に何もないから。
それに…一華さんには誠実でいたい。」

「そう。」

「ねえ…何不安そうな顔してるの?」

「し、してた?」

「うん、してる。」

「じゃあ…不安かも。」

ぽつりと落ちた言葉は、
自分でも驚くほど弱くて、
胸の奥がきゅっと痛む。

柊くんは一瞬だけ目を細め、
そのまま優しく手を広げた。

「おいで。」

その声に抗えるわけがない。
吸い寄せられるように胸に身を預けると、
彼の腕がしっかりと背中を包み込んだ。

温かい。
呼吸のリズムが耳元でゆっくりと伝わってくる。
さっきまで胸にあったざわつきが、
少しずつ溶けていく。

「一華さん、大好きだよ。」

低くて甘い声が、
首筋にかかる息と一緒に落ちてくる。

「うん。」

返事は短いのに、
胸の奥がじんわり熱くなる。

柊くんの手が、
安心させるように背中をゆっくり撫でた。
その優しさに、
不安がひとつずつほどけていくのが分かる。