彼は魅惑のバレリーノ


「天音…もう帰って。
俺の気持ちは変わらない。」

「…っ。」

「公演はちゃんとやろう。
お互いプロなんだから。」

「わ、わかってるわ。」

そう言って踵を返し、
去り際にぎろりと私を睨んでいった。

……しゅ、修羅場?

「ココアいれるよ。上行こう。」

「うん。」

シャワーから出た柊くんが、
湯気の立つココアを淹れてくれた。
私はその間に着替えて、ソファに腰を下ろす。

さっきの光景が頭から離れない。

なんだったのかな。
あの人……まだ未練あるのかな。

カップを両手で包みながら、
ぼんやりとそんなことを考えていると——

「一華さん。」

隣に座った柊くんが、
そっと私の頭に手を置いた。

「さっきの、気にしてる?」

その声があまりにも優しくて、
胸の奥がきゅっとなる。