彼は魅惑のバレリーノ


気づけば一階の練習室に来ていた。
鏡に囲まれた空間は静かで、床の冷たさが足裏に心地いい。

まずはストレッチから始める。

「前よりやらかくなったね。」

「そうかも。」

「これ、シューズはいて。」

渡されたバレエシューズを履くと、足先がきゅっと締まるような違和感。
でも不思議と背筋が伸びる。

「バー持って。一番ポジション。」

足の位置を直されるたび、指先が触れてくる。
そのたびに心臓が変なリズムを刻む。

「そう。次、これが二番。」

五番までやる頃には、太ももがぷるぷる震えていた。

「き、きつい。」

「意外とできてたよ?」

「いや無理。キープできない。」

「よし、じゃあ次。手のポジション。」

柊くんがゆっくり背後に回る。
その動きだけで、空気が変わる。

「一番。指先まできれいに意識して。
頭を一本の線で吊られてる感じ。」

そっと手を添えられ、腕の角度を直される。
背中越しに彼の体温が近い。

「ち、近い…し、つらい…!」

「…手取り足取り教えてあげる。」

耳元で低く言われて、肩がびくっと跳ねる。

「特別レッスンだからね。」

そう言って、彼の手が私の腰に軽く添えられる。
支えるための自然な動作なのに、心臓が跳ねる。

「ほら、一華さん。姿勢崩れてる。」

「む、無理…近い…!」

「大丈夫。俺が支えるから。」

声が落ち着いていて、妙に安心するのが悔しい。