彼は魅惑のバレリーノ

「ねぇ、一華さん。アパートだけどどうする? 解約する?」

柊くんがコップを置きながらこちらを見る。
その声はいつも通りなのに、どこか期待を含んでいるように聞こえた。

「あー、一応解約して新しいとこ探そうとしてたんだよね。
だから荷物は今月中にはどうにかするつもり。」

「そう。探さなくていいからね。」

彼は少しだけ笑う。

「もう同居じゃなくて…同棲だから。」

その言葉に胸がきゅっとなる。

「お、お世話になります。」

「お世話します。」

「いや、それ違うよ!? あ、それより忘れてた。」

慌ててスマホを開くと、不在着信とメールが並んでいた。
亜季からだ。昨日、出ていくつもりでいたから泊めてもらう予定だったのを思い出す。

“どうにかなった。ありがとう。また報告するね。”

そう返して、ほっと息をつく。

「友達?」

「うん。昨日出ていくつもりだったから、泊めてもらう予定でいたんだ。」

「ふーん。」

彼は指先でテーブルの端に置かれた手紙を指しながら、少しだけ眉を寄せる。

「もう勝手にいかないでね。置き手紙もなしね。」

その言い方が妙に胸に刺さる。

「す、捨てます。」

「よろしい。」

軽く笑う彼の表情に、肩の力が抜けていく。