彼は魅惑のバレリーノ


離れたあと、
柊くんは少し照れたように笑って囁く。

「ねぇ、ベッド行かない?」

「えっ!?」

唐突すぎる提案に、心臓が跳ね上がる。
さっきまでの甘い空気が、一気に熱を帯びる。

「続き…どう?」

さらっと言うその声が低くて、
耳の奥がじんと熱くなる。

「ま、ま、まって。
はやくない?! 展開はやくない!?」

慌てて距離を取ると、
柊くんは不思議そうに瞬きをした。

「え、そう? お互い大人だし。
一緒に住んでるし。」

さらっと言うな!!
心の準備が追いつかない。

「か、身体目当て?!」

「うーん、身体もかな。」

即答。
しかも迷いゼロ。

お、おい!!

「わ、わかった!
せ、せめて、シャワー浴びさせて。」

「うん、そうだね。
一緒にお風呂入る?」

「はいらない!!」

反射的に叫んで、
私は逃げるように脱衣所へ駆け込んだ。

ドアを閉めた瞬間、
心臓がバクバクとうるさい。

(な、なにあれ……
あんなの耐えられるわけない……)

頬が熱くて、
鏡に映る自分が真っ赤なのがわかる。

その頃、リビングでは——

「少し攻め過ぎたかな…」

ぽつりと漏れた柊くんの声は、
脱衣所の中の私には届かなかった。

彼はソファに座り直し、
後頭部をぽりぽり掻きながら小さく笑う。

「……でも、可愛かったな。」

その呟きだけが、
静かな部屋に溶けていった。