彼は魅惑のバレリーノ


す、すごい。

目の前の世界に飲み込まれる。
ダンサーたちの動きが波のように連なって、
背景に本当に海が見える気がした。

でも――
その中でも一際目立つのは柊くんだった。

しなやかで、強くて、
誰よりも綺麗で、
視線が自然と彼を追ってしまう。

(やっぱり……彼が一番綺麗だ)

演目はオリジナルの“海賊”の物語。

海賊アルトがソフィアを助けるところから始まり、
二人は惹かれ合う。

でもソフィアは人間ではなく海の女神。
陸に上がってしまうと海が荒れる。

だから――
二人の恋は結ばれない。

想い合っていても、
立場や運命で結ばれない恋。

切なくて、胸がぎゅっとなる。

第一部が終わり、音楽が止む。

「休憩ー。」

ざわっと空気が緩んだところで、
柊くんが汗を拭きながら近づいてきた。

「一華さん、大体こんな感じ。」

「すごかった……
海が見えた。」

「それはよかった。」

息が少し上がっていて、
額に汗が光っていて、
さっきまでの“舞台の顔”がまだ残っている。

「俺はもう少し合わせしていくから。
先帰える?」

優しく声をかけられる。

でも――
帰りたくない。

この空気の中に、
もう少しだけいたい。