彼は魅惑のバレリーノ


「ねぇ! 君が柊のこと“ユキヒョウ”って言った人でしょ?」

「え?」

なんでそれを知ってるの。

「あ、やっぱり!
柊がさ、嬉しそうに言ってたんだよ。」

「本当ですか……?」

「そうそう。
あとさ――君、柊の彼女?」

「ち、違います!」

即答した私に、矢野さんは目を丸くする。

「え、そうなの?
同じシャンプーの匂いしたから。」

「うそ!?」

「うっそー。」

「え?」

「鎌かけた。」

「矢野さん……」

にやにやしている。
完全に遊ばれてる。

「でも、この感じだと……
同じシャンプーは使う仲だけど、恋人ではないってこと?
身体の関係?」

「ぶはっ!」

思わず変な声が出た。

「だ、大丈夫?」

「ち、違いますから!!」

「そうだね。
こんな純粋そうな人が、そんな関係にはならないか。
そもそも柊もそういうタイプじゃないしな。」

(……純粋って……)

顔が熱い。
心臓がうるさい。

矢野さんは悪気なく笑っているけど、
言われた言葉が胸の奥に残る。

“同じシャンプーの匂い”
“恋人じゃない”
“身体の関係じゃない”

じゃあ、私たちは何なんだろう。

答えられないまま、
胸の奥がじんわり痛くなる。