花屋のガーデニング委員会!


「どうして俺が現れたか、それは自分で考えろ」
「えぇ! 無茶ぶりだよ!」
「大丈夫だ。長年じいさんと過ごしてきたお前なら分かるはずだから」
「!」

変かもしれないけど「薔薇園くんは本当に元バラかもしれない」って思った。だって、あまりにもおじいちゃんを知ったように話すから。

「薔薇園くんは、おじいちゃんのことが好き?」
「……あぁ」

薔薇園くんは切れ長の瞳をスッと細めて、柔らかく笑う。その瞳の奥に、私の知らない薔薇園くんとおじいちゃんの思い出が眠っているように見える。

「じいさんのこと大好きだった。じいさんがいなくなった今も変わらない。
途中で出会ったばあさんもそう。俺にとって大切な人たちだ。お前も同じだろ?」
「うん……」

おじいちゃんとおばあちゃんを大切に思ってくれることが嬉しい。私が大切にしている人たちを、薔薇園くんも大切に思っているんだ。そして今、私と同じように「寂しい」と思っているんだ。共感してもらえると嬉しくて、寂しい心に少しだけ灯りが灯る。鼻の奥がツンとなっていると、薔薇園くんに「また泣いている」と鼻をつままれた。

「泣き虫だな、お前」
「お、お前じゃないもん。ちゃんと私には名前があって……」
「知っている。心春だろ」
「え、なんで知っているの?」

薔薇園くんは「知らないはずないだろ」とニッと口角を上げる。

「じいさんとばあさんが愛おしそうにお前を呼んでいた。何度も心春って」
「そっか。へへ、おじいちゃんに会いたいなぁ。病院にいるおばあちゃんにも」
「ばあさんには会いに行けるだろ、ほら」

薔薇園くんからテイッシュを受け取ろうにも、涙で視界がぶれて上手くとれない。すると薔薇園くんはガッと私の頭を掴んで、涙で溢れた目を強引に拭いた。

「いっぱい泣け、俺が拭いてやるから」
「でも……」
「いいから泣け。植物だって、吸収しきれない水は根から排水するんだ。そうしないと腐るからな。だからお前も、ちゃんと出し切れ。じゃないと腐るぞ」
「ぷっ、なにそれ」

植物と一緒にされたり、腐ると言われたり散々だ。
だけどフッと気が緩み、一気に涙がせり上がる。

「うぅ……っ」

この時私は、今まで直視できなかった「寂しい」気持ちと初めて向き合った

「庭に誰もいなくなって寂しいよ~っ」

薔薇園くんがあててくれたテイッシュに、次々と涙が落ちる。
おじいちゃんがいなくなった時はたくさん泣いたけど、おばあちゃんが入院した時は泣かなかった。だけど私、家に帰って二人の姿がなくて毎日とても寂しくて泣きたいほど辛かった。それをずっと我慢していたんだって、今さら気づく。

「おじいちゃん、おばあちゃん~っ」

本当は私、ずっと泣きたかったんだ。だけど悲しい気持ちをむりやり胸の奥へ押し込んでいた。そんなことをしたら、元気がなくなるのは当たり前だ。

「二人に会いたい、またお話がしたいよ~っ」

すると薔薇園くんは私の後頭部へ手を回し、グイッと自分の胸へ引き寄せる。

「病院に行けばばあさんに会える。しかも元気になれば家に戻って来られるんだ」
「うん、うんっ……」
「じいさんには会えないが、ずっと俺らの中にいるだろ。だから大丈夫だ」

言いながら、薔薇園くんはギュッと握りこぶしを作る。そっか、薔薇園くんもおじいちゃんに会えなくて悲しいんだ。そう思うと「薔薇園くんはバラだ」ってすんなり納得できた。だって、この悲しさを共感できるのは〝おじいちゃんのことが大好き〟な人に違いないから。長い間、おじいちゃんと一緒に過ごしてきた人に違いないから。

「ねぇ薔薇園くん。薔薇園くんの知っているおじいちゃんの話、また聞かせて?」
「ふっ、たくさんある。じいさん結構やんちゃだったから」
「らしいね。さっきお母さんから少し聞いたんだ」

私の知らないおじいちゃんを、これからたくさん教えてもらおう。
そう思うと、寂しい気持ちがみるみる小さくなっていく。

「まず、じいさんは花に目がなくて、ばあさんを怒らせたことが何度もある」
「ふふ、おじいちゃんらしいなぁ」

おじいちゃんの話をしながら、顔を合わせて笑い合う私たち。流れていた涙は、いつの間にか止まっていた。

 ❀

おじいちゃんの話をしながら、部屋の片づけがひと段落した時。私は、一つだけ気になることがあった。

「薔薇園くんって、下の名前はあるの?」
「そういや考えてなかったな。薔薇園も、即席で考えた名字だし」
「やっぱりそうなんだ」

薔薇園って珍しい名字だと思ったから、作った名字と聞いて納得する。

「だけど薔薇園じゃ呼びにくいし……ん?」

その時、開けっ放しのカーテンへ目を向ける。窓から入ったオレンジの光が一筋のび、私たちの足元を照らしている。光を辿って視線を上げると、窓の外には大きな夕日。足元だけじゃなく、広い空さえもオレンジ色に染めていた。
空から私たちを見ているおじいちゃんにも、オレンジの光は届いているのかな? 入院しているおばあちゃんにも届いているのかな? そう考えると、私たちは離れているけど同じ空の下にいるんだと気づいた。寂しい気持ちが、さっきより薄まった気がする。なんだか私、前よりも大丈夫だ。

「名前、空はどうかな?」
「空?」
「そう。薔薇園空。カッコよくない?」

薔薇園くんは、目を瞑って腕を組む。数秒後に「いいな」と、栗色の瞳を細めた。

「薔薇園は長いし、空って呼んでくれ」
「うん!」

するとナイスタイミングで、下から「ご飯よー」とお母さんの声がかかる。私と薔薇園くん――空くんは「ご飯」と聞いて、同時にお腹が鳴った。

 グウゥ

「……ぷっ」
「はは! そりゃあれだけ動けば腹も減るよな」
「うん。下へ降りようか。早く食べよう!」

カーテンを閉め、エアコンのスイッチを切る。私が先に出て空くんを待っていると、空くんは「そういえば」と部屋の中から私を見た。

「心春の方が、腹の音がデカかったな」
「っ!」

そういえば「心春」って名前で呼ばれている! 年の近い男の子に名前で呼ばれるなんて初めてだからドキドキだよ!

「心春、どうした?」
「な、なんでも、ありません……っ」

急に敬語で話す私を見て、空くんがプッと吹き出す。そうかと思えば私の手を握り「降りるぞ」と、一段と優しく笑った。