一輪挿しの花瓶があったから、バラを活けて私の部屋へ持って行く。そういえばおばあちゃんが「花は太陽が好き」って言っていたっけ。水をこぼさないよう、よく日が当たる窓辺へ置く。
「こんなに真っ赤なバラは初めて見たかも」
厚みのある花びらに触れる。ザラリ。今を生きている触り心地だ。何度も花びらをなでると、パチパチとバラが光って見えた。まるで触ってもらえて喜んでいるみたい。
「枯れないで、元気でいてね」
このバラは枯らしちゃいけないって、なぜかそう思った。普通の花にはない、特別な感じがするっていうか……。
「って、何を考えているんだか。……ふわぁ~」
窓辺にいるから、ポカポカと気持ちいい陽気に包まれる。頬がピリピリするくらい大きなあくびをした後、机に突っ伏し目を閉じる。すると、なんとビックリ。おじいちゃんが夢に出て来た! 私が「おじいちゃん!」と手を振ると、おじいちゃんは突進する私を力強く抱きしめる。いつもの穏やかな声が、心地よく耳に入って来た。
『おばあちゃんを頼むぞ。心春』
意味が分からなくて「え?」と聞き返す。だけど、夢はそこでおしまい。現実に連れ戻され、いつもと変わらない私の部屋が視界に写る。
「さっきのって……?」
おじいちゃんと会えて話が出来たのは嬉しい。だけど「おばあちゃんを頼む」って、どういうこと? 腕を組んで悩んだ、その時だった。
「おい」
突然聞こえたのは、男子の声。
「え⁉」
ビックリして振り返ると、部屋の真ん中に一人の男子が立っていた。少しツリ目な瞳とやや猫毛の髪は、同じ栗色をしている。手足はスラリと長くて、背は麻衣ちゃんよりも少し高い。かなりのイケメンだ。……口が〝への字〟に曲がっていることを除けば。
「あなた誰? どこから来たの?」
どうして見たこともない男子が、不機嫌オーラを背負って私の部屋にいるんだろう。もしかして……危ない人⁉
「俺はバラ。お前にガーデニングを教えるため人になった」
「ん?」
今、なんて言った? イスから転げ落ちそうになるのを耐え、ゆっくりと立ち上がる。頭の中では【男子=不審者 注意!】の注意書きが、アラートのように鳴っている。
「バラって、それがあなたの名前なの?」
まさか本物のバラじゃないよね? どう見ても人間だし、ちゃんと服も着ている。男子は白い半そでに、黒い長ズボン。線は細いけど、服から筋肉質な腕がのぞいている。
男子が、スッと腕を持ち上げる。
「あれ見ろよ」
男子の腕を追いかけて、窓へ視線を向ける。もぬけの殻になった一輪挿しの花瓶が、ポツンと寂しく立っていた。
「あれ? バラはどこへ行ったの?」
男子は「だから」と、眉根を寄せて盛大なため息。
「花瓶にあった赤いバラが、この俺なんだよ」
「えぇ⁉」
この男子が元バラ⁉ 本当に植物? どう見ても人間じゃん! 私の声を聞いたお母さんが心配したらしい。「どうしたの?」と、一階から上ってくる!
「あなたがココにいたらマズイよ、隠れて!」
慌てる私とは反対に、男子は落ち着いている。涼しい顔で「ちょうどいい」と、お母さんを迎えるため自らドアを開けた。
「今日からこの家で世話になるから挨拶する」
「世話になる……まさか〝この家に住む〟ってこと⁉」
男子がコックリと頷くものだから、頭の中はパニック寸前!「なんとかして男子の姿を隠さなきゃ」と焦った結果、前へつんのめり派手に転ぶ。その瞬間、ひょいとお母さんが顔を出した! 男子は目にも止まらぬ速さで正座をし、侍のように頭を下げる。
「今日からお世話になります、薔薇園(ばらぞの)と申します。おじい様の遠縁にあたる者で、皆様にお会いするのは初めてです。おじい様との約束で、今日からココでお世話になります。どうぞよろしくお願いします」
私と会った時とは違う爽やかな笑顔。(面食いの)お母さんは驚くも「息子ができちゃった!」と満更でもない笑み……いや、大満足の笑み! 男子――薔薇園くんを立たせたお母さんは「よろしくね」とウィンクを飛ばす。
「すぐに部屋の用意と学校の手続き、あとは服一式を揃えなきゃ!」
バビュンと音がするスピードで行っちゃった。お母さん、なんで信じちゃうの~!
愕然とする私の隣で、なぜか薔薇園くんはどや顔をする。
「こういうのは誠心誠意、ちゃんと話せば伝わるんだよ」
フンと鼻を鳴らした後。真剣な顔つきで「それより」と薔薇園くん。
「見せたいものがあるんだ。ついてきてくれ」
ずんずんと階段を降りた彼は、一階にある和室のドアを開けた。
「ココはおじいちゃんとおばあちゃんの部屋だよ?」
「だから来たんだ」
おじいちゃんとおばあちゃんの部屋に来たかった、ってこと? さっきの迷いのない歩き方も気になる。薔薇園くん、どうしてこの家のことを知っているんだろう?
「入れよ」
薔薇園くんに促されるまま、和室へ足を踏み入れる。
「お、お邪魔します」
「ぷっ。〝お邪魔します〟って何だよ。ココはお前の家だろ?」
「でも和室に入るのは久しぶりだもん。ココにいないおじいちゃんおばあちゃん達への挨拶っていうか……」
「へぇ」
さっき私をからかった瞳が、スッと細くなる。
「挨拶か。いいな、その考え」
まさか褒めてくれるとは思わなかった。「いいな」と言った薔薇園くんは笑っているけど、からかっている顔じゃない。初めて見る優しい顔に、ちょっとだけ見入っちゃった。
「こんなに真っ赤なバラは初めて見たかも」
厚みのある花びらに触れる。ザラリ。今を生きている触り心地だ。何度も花びらをなでると、パチパチとバラが光って見えた。まるで触ってもらえて喜んでいるみたい。
「枯れないで、元気でいてね」
このバラは枯らしちゃいけないって、なぜかそう思った。普通の花にはない、特別な感じがするっていうか……。
「って、何を考えているんだか。……ふわぁ~」
窓辺にいるから、ポカポカと気持ちいい陽気に包まれる。頬がピリピリするくらい大きなあくびをした後、机に突っ伏し目を閉じる。すると、なんとビックリ。おじいちゃんが夢に出て来た! 私が「おじいちゃん!」と手を振ると、おじいちゃんは突進する私を力強く抱きしめる。いつもの穏やかな声が、心地よく耳に入って来た。
『おばあちゃんを頼むぞ。心春』
意味が分からなくて「え?」と聞き返す。だけど、夢はそこでおしまい。現実に連れ戻され、いつもと変わらない私の部屋が視界に写る。
「さっきのって……?」
おじいちゃんと会えて話が出来たのは嬉しい。だけど「おばあちゃんを頼む」って、どういうこと? 腕を組んで悩んだ、その時だった。
「おい」
突然聞こえたのは、男子の声。
「え⁉」
ビックリして振り返ると、部屋の真ん中に一人の男子が立っていた。少しツリ目な瞳とやや猫毛の髪は、同じ栗色をしている。手足はスラリと長くて、背は麻衣ちゃんよりも少し高い。かなりのイケメンだ。……口が〝への字〟に曲がっていることを除けば。
「あなた誰? どこから来たの?」
どうして見たこともない男子が、不機嫌オーラを背負って私の部屋にいるんだろう。もしかして……危ない人⁉
「俺はバラ。お前にガーデニングを教えるため人になった」
「ん?」
今、なんて言った? イスから転げ落ちそうになるのを耐え、ゆっくりと立ち上がる。頭の中では【男子=不審者 注意!】の注意書きが、アラートのように鳴っている。
「バラって、それがあなたの名前なの?」
まさか本物のバラじゃないよね? どう見ても人間だし、ちゃんと服も着ている。男子は白い半そでに、黒い長ズボン。線は細いけど、服から筋肉質な腕がのぞいている。
男子が、スッと腕を持ち上げる。
「あれ見ろよ」
男子の腕を追いかけて、窓へ視線を向ける。もぬけの殻になった一輪挿しの花瓶が、ポツンと寂しく立っていた。
「あれ? バラはどこへ行ったの?」
男子は「だから」と、眉根を寄せて盛大なため息。
「花瓶にあった赤いバラが、この俺なんだよ」
「えぇ⁉」
この男子が元バラ⁉ 本当に植物? どう見ても人間じゃん! 私の声を聞いたお母さんが心配したらしい。「どうしたの?」と、一階から上ってくる!
「あなたがココにいたらマズイよ、隠れて!」
慌てる私とは反対に、男子は落ち着いている。涼しい顔で「ちょうどいい」と、お母さんを迎えるため自らドアを開けた。
「今日からこの家で世話になるから挨拶する」
「世話になる……まさか〝この家に住む〟ってこと⁉」
男子がコックリと頷くものだから、頭の中はパニック寸前!「なんとかして男子の姿を隠さなきゃ」と焦った結果、前へつんのめり派手に転ぶ。その瞬間、ひょいとお母さんが顔を出した! 男子は目にも止まらぬ速さで正座をし、侍のように頭を下げる。
「今日からお世話になります、薔薇園(ばらぞの)と申します。おじい様の遠縁にあたる者で、皆様にお会いするのは初めてです。おじい様との約束で、今日からココでお世話になります。どうぞよろしくお願いします」
私と会った時とは違う爽やかな笑顔。(面食いの)お母さんは驚くも「息子ができちゃった!」と満更でもない笑み……いや、大満足の笑み! 男子――薔薇園くんを立たせたお母さんは「よろしくね」とウィンクを飛ばす。
「すぐに部屋の用意と学校の手続き、あとは服一式を揃えなきゃ!」
バビュンと音がするスピードで行っちゃった。お母さん、なんで信じちゃうの~!
愕然とする私の隣で、なぜか薔薇園くんはどや顔をする。
「こういうのは誠心誠意、ちゃんと話せば伝わるんだよ」
フンと鼻を鳴らした後。真剣な顔つきで「それより」と薔薇園くん。
「見せたいものがあるんだ。ついてきてくれ」
ずんずんと階段を降りた彼は、一階にある和室のドアを開けた。
「ココはおじいちゃんとおばあちゃんの部屋だよ?」
「だから来たんだ」
おじいちゃんとおばあちゃんの部屋に来たかった、ってこと? さっきの迷いのない歩き方も気になる。薔薇園くん、どうしてこの家のことを知っているんだろう?
「入れよ」
薔薇園くんに促されるまま、和室へ足を踏み入れる。
「お、お邪魔します」
「ぷっ。〝お邪魔します〟って何だよ。ココはお前の家だろ?」
「でも和室に入るのは久しぶりだもん。ココにいないおじいちゃんおばあちゃん達への挨拶っていうか……」
「へぇ」
さっき私をからかった瞳が、スッと細くなる。
「挨拶か。いいな、その考え」
まさか褒めてくれるとは思わなかった。「いいな」と言った薔薇園くんは笑っているけど、からかっている顔じゃない。初めて見る優しい顔に、ちょっとだけ見入っちゃった。



