私、花屋心春(はなやこはる)。茶色の髪は肩まで伸びて背が低い、元気のない中学一年生。なんで元気がないかっていうとね……
「心春、一緒に帰ろう~!」
「麻衣ちゃん。うん、帰ろうか」
小学生の時から仲が良い、林麻衣(はやしまい)ちゃん。いつも長い黒髪を高い位置でくくっている女の子。男子に負けないくらい背が高いんだよ。同じクラスなんだ。
「心春の家って学校から近いねぇ。寝坊しても、走ったら間に合うじゃん!」
「寝坊したことないけど、確かにそうだね」
私の家と学校は、歩いて五分の距離。白い壁の一軒家。玄関の横に白いアーチが並んでいる。そこを抜けると広い庭があるの。半年前はキレイなお花がたくさん咲いていた。だけど冬が来たら全て枯れちゃった。
「心春って寝坊したことないの? あ、確か毎朝、庭の花に水やりをしているんだっけ?」
「うーん、でも今は〝水をあげる花がない〟からさ……」
あ――麻衣ちゃんは、私が元気ない理由を知っている。だからこそ〝こういう事〟を言うと、麻衣ちゃんに気を遣わせちゃう。おずおずと見ると、案の定。麻衣ちゃんは困って眉を下げていた。わぁ、このままじゃダメだ!
「な、なーんてね。春の季節だし、何かが咲くかもしれないよねっ」
無理やり口角を上げる。すると麻衣ちゃんは安心したのか「うん」と笑ってくれた。
「もし芽が出たら教えてね。あたしも手伝いたい! ガーデニングやってみたいんだっ」
「わぁ嬉しい!」
ガーデニングは、私が大好きなおじいちゃんの趣味。だけど難しそうで、私が実際にやったことはないの。
「だけど麻衣ちゃんと一緒なら、私もガーデニングしてみたいかも」
「決まり! する時は呼んでね。飛んで行くから! あ、もう心春の家に着いちゃった」
ポニーテールを揺らしながら、麻衣ちゃんが白壁の家を見上げる。
「心春の家が近いのはいいけど、話す時間が短いよ! また明日はなそうね、心春!」
「うん。また明日ね、麻衣ちゃん」
互いに手をひらひらと振った後。玄関を開ける前に、庭へ続く白いアーチが目に入る。
「久しぶりに行ってみようかな」
まるで導かれるように、どんどんとアーチをくぐる。すると円形の大きな花壇にたどり着いた。花壇の真ん中には、一つのテーブルと三脚のイス。誰も座らないイスは、前に見た時より埃っぽい。
「何も咲いていない……当たり前か。種を植える人がいないんだもん」
ガーデニングをしていたのはおじいちゃんは、花が大好き。だけど三か月前、おじいちゃんは天国に行っちゃった。もともと心臓が悪かったんだって。お別れするのが寂しくて泣いていたら、おばあちゃんが言ったの。
『空にいる太陽から元気をもらって、植物は花を咲かせるだろう?
心春も一緒さ。空にいるおじいちゃんから元気をもらおうね』
その言葉のおかげで、私はおじいちゃんとの別れを乗り越えられた。だけど……私は気づいていなかった。オシドリ夫婦のおばあちゃんこそ、おじいちゃんの死を悲しんでいることに。
おばあちゃんは〝ガーデニングするおじいちゃん〟を庭のイスに座って眺めるのが好きだった。おじいちゃんから花をもらっては「ありがとう」と笑っていた。おじいちゃんがいなくなって庭の花が枯れると、おばあちゃんも元気をなくした。心配したお母さんが病院へ連れて行くと、栄養が足りなくて入院。今日でちょうど一週間だ。
おじいちゃんとおばあちゃん、それにお花。誰もいない庭が寂しくて、ずっと遠ざけていた。でも今日は来たくなった。麻衣ちゃんとガーデニングの話をしたからかな?
だけど何も生えていない花壇を見て、ガックリ。
「私の心と同じで、元気のない花壇になっちゃったなぁ」
今が春の季節とは思えないほど、何もない花壇。はぁと、ため息をついて踵を返す。
その時だった。
ガサッ
「今、なにか音がした?」
振り返ると、一輪の赤いバラが落ちている。さっきまで何もなかったよね?
バラを拾い上げると、茎に鋭いトゲたち。気を付けて持たなくちゃ。
「君はどこから来たの? 風に飛ばされちゃった?」
念のため庭の外へ出たけど、バラを探している人はいない。
「このままだと枯れちゃうよね……」
そう言えば、おじいちゃんとおばあちゃんも花を囲んでよく笑っていたなぁ。二人のことを思い出すと、自然と優しい気持ちになれる。
「ウチへおいで。お水をあげる」
花びらに優しく触れる。春の陽気のせいか、少しだけ温かかった。
「心春、一緒に帰ろう~!」
「麻衣ちゃん。うん、帰ろうか」
小学生の時から仲が良い、林麻衣(はやしまい)ちゃん。いつも長い黒髪を高い位置でくくっている女の子。男子に負けないくらい背が高いんだよ。同じクラスなんだ。
「心春の家って学校から近いねぇ。寝坊しても、走ったら間に合うじゃん!」
「寝坊したことないけど、確かにそうだね」
私の家と学校は、歩いて五分の距離。白い壁の一軒家。玄関の横に白いアーチが並んでいる。そこを抜けると広い庭があるの。半年前はキレイなお花がたくさん咲いていた。だけど冬が来たら全て枯れちゃった。
「心春って寝坊したことないの? あ、確か毎朝、庭の花に水やりをしているんだっけ?」
「うーん、でも今は〝水をあげる花がない〟からさ……」
あ――麻衣ちゃんは、私が元気ない理由を知っている。だからこそ〝こういう事〟を言うと、麻衣ちゃんに気を遣わせちゃう。おずおずと見ると、案の定。麻衣ちゃんは困って眉を下げていた。わぁ、このままじゃダメだ!
「な、なーんてね。春の季節だし、何かが咲くかもしれないよねっ」
無理やり口角を上げる。すると麻衣ちゃんは安心したのか「うん」と笑ってくれた。
「もし芽が出たら教えてね。あたしも手伝いたい! ガーデニングやってみたいんだっ」
「わぁ嬉しい!」
ガーデニングは、私が大好きなおじいちゃんの趣味。だけど難しそうで、私が実際にやったことはないの。
「だけど麻衣ちゃんと一緒なら、私もガーデニングしてみたいかも」
「決まり! する時は呼んでね。飛んで行くから! あ、もう心春の家に着いちゃった」
ポニーテールを揺らしながら、麻衣ちゃんが白壁の家を見上げる。
「心春の家が近いのはいいけど、話す時間が短いよ! また明日はなそうね、心春!」
「うん。また明日ね、麻衣ちゃん」
互いに手をひらひらと振った後。玄関を開ける前に、庭へ続く白いアーチが目に入る。
「久しぶりに行ってみようかな」
まるで導かれるように、どんどんとアーチをくぐる。すると円形の大きな花壇にたどり着いた。花壇の真ん中には、一つのテーブルと三脚のイス。誰も座らないイスは、前に見た時より埃っぽい。
「何も咲いていない……当たり前か。種を植える人がいないんだもん」
ガーデニングをしていたのはおじいちゃんは、花が大好き。だけど三か月前、おじいちゃんは天国に行っちゃった。もともと心臓が悪かったんだって。お別れするのが寂しくて泣いていたら、おばあちゃんが言ったの。
『空にいる太陽から元気をもらって、植物は花を咲かせるだろう?
心春も一緒さ。空にいるおじいちゃんから元気をもらおうね』
その言葉のおかげで、私はおじいちゃんとの別れを乗り越えられた。だけど……私は気づいていなかった。オシドリ夫婦のおばあちゃんこそ、おじいちゃんの死を悲しんでいることに。
おばあちゃんは〝ガーデニングするおじいちゃん〟を庭のイスに座って眺めるのが好きだった。おじいちゃんから花をもらっては「ありがとう」と笑っていた。おじいちゃんがいなくなって庭の花が枯れると、おばあちゃんも元気をなくした。心配したお母さんが病院へ連れて行くと、栄養が足りなくて入院。今日でちょうど一週間だ。
おじいちゃんとおばあちゃん、それにお花。誰もいない庭が寂しくて、ずっと遠ざけていた。でも今日は来たくなった。麻衣ちゃんとガーデニングの話をしたからかな?
だけど何も生えていない花壇を見て、ガックリ。
「私の心と同じで、元気のない花壇になっちゃったなぁ」
今が春の季節とは思えないほど、何もない花壇。はぁと、ため息をついて踵を返す。
その時だった。
ガサッ
「今、なにか音がした?」
振り返ると、一輪の赤いバラが落ちている。さっきまで何もなかったよね?
バラを拾い上げると、茎に鋭いトゲたち。気を付けて持たなくちゃ。
「君はどこから来たの? 風に飛ばされちゃった?」
念のため庭の外へ出たけど、バラを探している人はいない。
「このままだと枯れちゃうよね……」
そう言えば、おじいちゃんとおばあちゃんも花を囲んでよく笑っていたなぁ。二人のことを思い出すと、自然と優しい気持ちになれる。
「ウチへおいで。お水をあげる」
花びらに優しく触れる。春の陽気のせいか、少しだけ温かかった。



