眷属少女のブーケット


「いよーーーーーーーーーーーーーーーーーし皆んな!作戦会議、始めるよ!!」

 そう叫んだまま十回転して、黒板の前に躍り出る。異様にテンションの高い私を見て、ニコニコしているのはシャラールだけだった。

「本番まであと半月だから、今回の会議で全員の参加競技を決めるよ。まずは『棒倒し』!!」

「ねぇシャラール。テスちゃんお昼からずっとあんな調子だけど、何かあったの?」
「運命の出会い、をちょっとね」
「なにそれ……意味深すぎる」

 ミリガンの戸惑う視線を背中に感じつつ、チョークで黒板を削る勢いで『棒倒し』のメンバーを書き上げた。

 棒倒し
 トキヨシ・ゴンダ
 カズラ・バトルシップ
 ヴァン・ギァリッグ
 ラジャイ・スマッシュ
 ジンジャー・トラヴェス
 マイオ・フラメント

「えーっ!ジンジャー棒倒しに入るの?リレーじゃなくて?」
「拙者てっきり、マイオ氏は綱引きに組まれるのかと」

 2人の参加について、困惑の声がチラホラ上がった。
 気持ちはわかる。ジンジャーに提案された時の私もかなり驚いたもんだ。

 とはいえ、

「実はここだけの話……この2人が入ってくれたら絶対に勝てる作戦が……あるんです……」
「ほほぉ!左様でございますか。手前、立候補したものの全くの無策でしたので有難いです!」
「こちらこそ、いきなり参加しちゃってごめんね。作戦についてはテスタちゃんにはもう話してるけど、棒倒し面子にはまた練習の時に説明するから」
「腸詰めてやるから、ニヒニヒ」

 皆んな納得してくれたようだ。グルリと教室を見回して、他に棒倒しに参加したそうな生徒がいないか確認する。

 うん、大丈夫そうだ。

「じゃ休まずいくよ!お次は『箒競争』!!」

 箒競争
 ミリガン・アーク
 イピオス・フルトゥナ

「私!?ってまぁ、私がまともにこなせる競技なんてこれしかないか」
「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーかってんじゃねぇかこのこのこのテスタ!そうとも大空こそアタシにふさわしいサイッコ〜の舞台!良かったな鶏ガラぁ!このイピオス・フルトゥナちゃんとウィニング・フライを体験できるだなんてよぉ!恐悦至極になれ!!」
「でも組むのはテスちゃんが良かったな!こんな化け物じゃなく!!」

 血の涙を流し突っ伏すミリガンに、吠えすぎてとうとう後ろの席のペルルにヘッドロックをかけられるイピオス。
 ミリガンにはちょっと申し訳ない……が、私が思うにこの2人は今まで接点が無かっただけで、敵に容赦がない点ではとても似ている。

 どうしても馬が合わなければ、私がイピオスと代わる予定で様子を見ていこう。

「お次は体育祭の花形!『リレー』!」

 リレー(男子)
 ルチャル・ルプトゥラ

「俺か?他クラスの奴に比べたら、俺そんなに足速くないだろ」
「いやいやいや何を仰る。よく体育の授業で、一緒にワカロウラ先生のこと抜かしてるじゃないの」
「でも毎回ほんの一瞬だけだぞ」
「本音を言うとね、ルチャル以外にノイたんの相手は無理かなと思って」
「えっ……あーそうか!ノイ様って確かリレー参加だったか!」

 やっぱり忘れていたか。頭を抱えて唸るルチャルに、クラスの男子の殆どが「頑張れよ」と優しい視線を向けた。 
 でもルチャルは自分が思っている以上に足が速いし、実際ワカロウラ先生に追い詰められた時も私より冷静だった。魔法を上手く組み合わせれば、このクラスの誰よりもリレーでノイたんに勝てる可能性は高いと思う。

「じゃこの調子で女子まで決めたいんだけど、まだ参加競技が決まってない人で、やりたい人いる?」
「やりたいって言うか、やるなら女子の中でジンジャーの次に速い子でしょ?ならテスちゃんしかいなくない?」
「それー!思った。ダーリンだってワカロウラ先生のこと抜かしてるもん」
「ん〜やっぱそうか……」

 足の速さを認められるのは嬉しいけれど、正直走るだけよりももうちょっと変わったルールの競技に出たい気持ちがある。

 まぁそう言ってくれるなら、と黒板にテスタ・オール・デメルングと自分の名前を書こうとしたその時。


「ま、待って、頼む!私に出させてくれ!!」


 鋭いけれど、少しだけ震えた声が後ろの方から飛んでくる。

 驚き振り返った私達の視線の先にいたのは、顔を真っ赤にしながら立ち上がるセラスだった。

 ◇

 ややあって、セラスの剣幕にあることを思い出した。手元にある他クラスの競技振り分け表を見てみる。

 思ったとおり。リレー(女子)のところに、ユラエル・リラの名前があった。

「出させてくれったってよぉ。お前クラスの中でも自分がどんだけ足が遅えのか、わかって言ってんのか?」

 ビータスの呆れた声に、勢いのあったセラスが「うっ」と言葉を詰まらせた。

 確かに足の速さじゃセラスは、クラスの中でも大分下の方にいる。
 てっきり手を抜いているだけかと思っていたけれど、改めて考えるとCクラスで主席を取るほど真面目なセラスが、いくら苦手でも授業で手を抜くわけがなかった。

「え、でもセラスって足速かったよね?決闘の時とか私、最初の一撃避けられなかったし」
「ああ。真正面にいたテスタさんからだとそう見えたかもしれないけど、あの時フィズィさんは『走って』たんじゃないよ。正確には『身体を雷に変えて突っ込んだ』んだ」

 教壇に立った私に変わり、黒板横で会議に参加してくれていたクレープス先生が、そう説明してくれた。

 なるほど。言われてみればあの一瞬、とても眩しかったような。

「でもそんな状態で突っ込んだら、着ていた服だけその場で置いてきぼりになるんじゃないですか?」
「現世の服だとそうなるかもしれないけど、常世の服はエーテルって言う特殊な魔力繊維が編み込まれてるから大丈夫。人型の時だけ着ている者の魔法に応じて、性質が変化するようになってるんだ。もちろんモルゲンロートの制服や体操服もそうだよ」
「へぇ!じゃあ淑女的にも安心ですね……あ、じゃあリレー本番もその魔法を使えば足が遅くても勝てるんじゃ」

 言いながらセラスの方を向けば、気まずそうに視線を逸らされる。
 名案だと思ったけれど、違うのだろうか。

 首を傾げていると「馬鹿、駄目、全然駄目」と机に頬杖をついたまま、呆れた様子のソワンの声が飛んできた。

「この魔法は対象との距離が短くないと、自分の形が保てなくなるから危険なの。先に走ってる奴等を対象にしたとしても直線でしか進めないからカーブを曲がりきれないし、例えこの方法でユラエル・リラに追い付いたとしても絶対にすぐ置いてかれるよ。マジで」
「……マジですか?」
「マジだね。カシナムくんの言う通り、リラさんは強化魔法を使わなくても相当足が速いから、小手先の魔法は帰って邪魔になる」

 クレープス先生の表情は厳しかった。
 リレー競技は自身への強化魔法は可能でも、他の走者への妨害や攻撃の魔法は許可されていない。つまり本当に、自分自身が速くなるしかない。

「セラス」
「な、なんだ」
「心のどっかで『ユラエル・リラに負けるのは仕方がない』って思ってない?」
「っ!思ってない!!思ってないから勝ちたいんだ!奴に!!」
「よっしゃ!じゃあ女子のリレーはセラスに決定!!本番までに徹底的に指導するから、着いてきてね!」

 言い終わるよりも早く、黒板にデカデカと名前を書いた。

 リレー(女子)
 セラス・フィズィ

「い、い、良いのか!?」
「無論、良い。ユラエル・リラがいくら速くても、セラスに強いガッツ力があるのは戦った私と、親友のヴィオレラがよく知ってるから」

 セラスが立候補してからずっと、彼女を優しい表情で見ていたヴィオレラにウインクを送る。

 ……ちょっと失敗して白目になったかもしれない。

 送られた側のヴィオレラは、苦笑しつつ立ち上がった。

「セラス、そう気負うことないわ。だってリレーはともかく綱引きはこの私、ヴィオレラ・マルマロが出るんだから。確勝よ」

 前髪を掻き上げつつ、放たれたヴィオレラの宣言に教室中がワッと湧き上がる。
 皆んなこの言葉を待っていたのだ。Cクラスの最重量級女王の、参戦と勝利の言葉を。

「よっ!最強!!」
「待ってましたー!」
「ん、なら私も出る」
「えいねぇえいねぇ、やったらアタシも出ようかな」
「ならついでによ、スチュワートとソワンも入れてくれ」
「はぁ?なんで僕まで」
「どうせオメーらダルがって最後まで決めらんねぇんだろ。『どこでも良いからそっちで決めて』とか言い出したらはっ倒すからな」
「ああ、もぉ、わかったよ」

 綱引き
 ヴィオレラ・マルマロ
 フェレス・アンバー
 ペルル・タンタキュル
 スチュワート・ツェッペリン
 ソワン・カシナム

 これで『綱引き』のメンバーが一気に決まった!
 予想外の速さに興奮してくる。
 さあて、お次は——

「あと決まって無いのは『魔撃』と『騎馬戦』か。魔撃って、飛んだり動いたりする的を魔法で撃ち落とす競技ですよね」
「その通り。しっかり的を壊すことと、制限時間内にどれだけ沢山の的を壊せるかが加点のポイントになってくるから、なるべく魔法のコントロールが正確な人か——一瞬で全てを薙ぎ払える人向け、かな」
「なる、ほど。じゃーあー……」
「よっしゃわかった!任せとけ!俺のカルヴァリン砲で、全的粉々にしてやるぜ!」
「え〜でも呼び出して組み立てるまでに時間かかるじゃん、アレ」
「他のクラスだと誰が出んの?」
「Bクラスならカメリア・パルクちゃんで、Aクラスならピース・クォーツくん。Sクラスはセントル・エッジくんね」
「魔法の射程、拡散、魔力量が全部安定して撃てる連中が多いな。テスタ、どうする?」
「ラヴちゃんとかどうかと思うんだけど。どう?ラヴちゃんいける?」



「大丈夫だよね?大丈夫だよ」



 可愛らしい、少年の声。
 ラヴちゃんの返事に、先生を含めた殆どが一斉に叫んだ。


「「「「しゃ、喋ったああああああ!!」」」」


 その様子を全く気にすること無く、ラヴちゃんはアイアイメイデンの中からいつものように話し出した。

「でも生贄がいるね?生贄がいるよ」
「生贄?どんな?」
「血が沢山いるの?血が沢山いるよ」
「それって私とかじゃ駄目?」
「死んじゃうから駄目だね?駄目だよ」
「あ〜そっか……」

 話すことは多々あれど、ラヴちゃんからどんな魔法を使うのか聞いたことは無かった。

 生贄、生贄か。
 少しくらいの怪我なら大丈夫だと思ったけれど、死んでしまうなら仕方ない。でもノイたんの眷属である私ならそう簡単に死ねない筈だけど、それほどまでに危険な魔法なんだろうか。

 全く想像ができずヌゥと唸ることしかできない私に変わり、今度は「ちょっと良いかな」とクレープス先生が手を挙げた。

「ネプトゥンさん。その魔法で使う生贄は何か別の物で代用できないかな?例えば大量の血液とか」
「……形がね?ね?騙されないぞ」
「人の形なら良いってこと?」
「大丈夫かな?大丈夫だよ」
「わかった。なら少し、先生の方で考えてみるよ」

 先生が私の方へ頷き、席に座った。私も頷き返して黒板にラヴちゃんの名前を書く。

 魔撃
 ラヴ・ネプトゥン

「じゃあ後は残ったメンバー、私とハニーとシャラールとビータスで『騎馬戦』だ!」

 騎馬戦
 テスタ・オール・デメルング
 アミュレット・ラーヴァ
 シャラール・バルクーク
 ビータス・カルヴァリン

「やったぁ!ダーリンと同じ競技☆」
「一緒に戦えて嬉しいわ〜頑張りましょうね」
「この面子ならテスタが上か。任せな、地獄の淵まで支えてやるよ!」

 はしゃぐハニーに、ふんわりと笑うシャラール。グッと握り拳を作って燃えるビータスと、中々頼もしいメンバーになった。

 良かった、無事に振り分けができたと胸を撫で下ろす。

「でも私、テスタちゃんは最初から騎馬戦を選ぶんだろうな〜って思ってたから、最後に決まったのは以外だったわ」
「え、なんで?」
「だってほら、騎馬戦はAクラスからルビンさんが出るのよ」

 ホラ、とそう言ってシャラールは選手表を指差した。

 息を呑み、選手表を見返す。
 本当だ、あった、Aクラスのところに『ルビン・ディスカーン』とある!

「な、なんで、今まで気づかずっ!」
「テスちゃん大丈夫?」
「こーしちゃいらんないっ、皆んな!今すぐ着替えて植物園隣の空き地に集合!練習を開始する!!」

 既に教室から飛び出した私の後ろからは「えー」という不満の声と、「よし行こう」という賛成の声が帰ってきた。


 猛特訓の開始である。