勇者に嫌われていると思ったら、実は執着されていました

※キモいヤンデレ注意
※時間軸は本編より前の話です
※魔法剣士のレオ視点






 ジェダの頰が動いている。(あめ)を口に含んでいるのか、ころころと音がする。

「ジェダー。俺にも飴をくれ〜」

 手を出すと眉間に皺が寄る。

「持ってない」
「今舐めてるやつが最後だったのか」
「……そうだ」

 糖分を摂りたかったが仕方ない。だがジェダは「小さい砂糖菓子ならある」と分けてくれた。

「うまぁ」

 口に含むと滑らかに溶けて消えた。もう一つとねだるが「これは非常食だ」と歯切れが悪くなった。

「セレナにあげる菓子か。じゃあいいや」
「……」

 時々、餌付けをしている所を見かける。ジェダは街で美味しそうな菓子を購入しては、セレナに見せびらかしている。
 セレナは侯爵令嬢で、庶民が食べるお菓子を知らない。もの珍しそうに菓子を眺めては「欲しい」と言わせているのだ。
 どうして素直になれないんだろうな。

 水浴びを終えたセレナとジュリアが帰ってきた。ジェダが慌ててタオルを取り出し、セレナを乱暴に拭いた。

「まだ濡れてるだろ」
「痛い、いたい、いたいぃ〜!」

 艶めいたセレナを誰にも見られたくなかったんだな。でもそれ逆効果じゃね?
 案の定、セレナが悲しそうな目をしてる。きっとジェダの前で、綺麗にセットした髪を見て欲しかったんだろうな。

「もうやめて! この間も乱暴に拭いたから、私のピアス無くしたよね!」
「あれは飾りがひとつ取れただけだ。それに他の石で修理しただろ」

 セレナの耳には青い宝石が煌めいている。ジェダの瞳と良く似ていた。

「でも大事なものだったのに。私の瞳と同じ黒色のものってなかなかないんだから」
「旅にそんな貴重なものを着けてくる方が悪い」
「……!」

 ジェダは女心は皆無だ。多分、セレナは着飾りたかったのだろう。
 俺はジュリアに目配せをした。阿吽の呼吸で今日も二人の喧嘩を阻止する。
 ジュリアがセレナを背後から抱きしめた。ジェダの目が驚愕で見開き、悔しそうにジュリアを睨んでいる。

「セレナ〜。ジェダなんか放っておいて、あっちで髪をセットしてあげる」
「ジェダ。俺たちも水浴びに行こうぜー」

 二人は何か言いたげだったが、有無を言わせずに引き剥がした。
 子守大変。

 ジェダはしぶしぶと俺の後に着いてきた。まだ飴を舐めている。
 よくもつ飴だな。そんな大きさもなさそうなのに。
 特別に良いやつを食べているのか? 俺はただの好奇心で口腔内を透視した。

 ジェダの舌上で固形物が動いている。優しそうに包み、ころころと揺れている。
 なんだ、あれ。飴じゃないな。なんか黒色の宝石のような……。
 視界が元に戻る。ジェダが反射魔法を仕掛けてきた。青い澄んだ眼球だけが、ゆっくりと俺を捉える。

「レオ。それ以上は見るな」

 今まで聞いたことのない凄んだ声。俺の鼓膜をじわじわと突き刺す。身体は発汗しているのに口腔はカラカラになった。
 俺は喉を振り絞って声を出した。

「ジェダ。お前さ、舐めているのって、まさか」
「ただの飴だよ。俺にとって格別に甘い飴だ」

 プラチナブロンドが綺麗に揺らめく。爽やかな顔でジェダは口角を上げた。