「俺のことが、本当に嫌いか……?」
見下ろす碧眼が冷たい。私の返事を待たずにジェダはテントの中に入っていった。
ランタンの光が天幕内を優しく照らしている。簡易ベッドに寝かされて、ジェダが上から覆いかぶさってきた。
ゾワッとした感覚が背筋から這い上がる。好きな人でもいきなりは無理!
「そういうところが」
「なんだよ」
「そういう自分勝手なところが嫌なの!制御魔法かけて天幕に連れ込まれて……好きになるわけないでしょ!」
私は局地魔法を唱えた。ジェダの周りにある重力を反転させる。ジェダの身体が宙に浮いた。
「やめろ!」
「それはこっちの台詞。早く制御魔法を解いて。言っとくけどジェダに」
ギュッと目を閉じる。
「好きな人でも、許可なくこういうことされるのは嫌。気をつけてね」
一瞬の静寂の後、私の身体が自由になった。
「……俺を下ろしてくれ」
「やだ」
「なんでだよ」
「私も強引にされたから、お返し」
ジェダの瞳が見開く。青い海のように揺らいだ。
「俺が悪かった。未熟で、余裕なくてごめん」
鍛えられた身体を小さくして謝罪する姿に、私の緊張感が抜けていく。
本当は少しだけ震えていた。でも弱さをさらけ出すのは、貴族としてプライドが許さない。
「あともう一つ聞きたいの」
「何だよ」
「魔王戦が終わった時、回復魔法させてくれなかったよね。好きな人に拒絶されるの、怖くてつらいんだよ。……あれは、どういう意味?」
押し寄せる鼓動が耳元まで響いてくる。
本当のことを聞くのって、なんて勇気がいるんだろう。
「あれは何が何でも、セレナを守りたかったから。余計な魔力を消費させたくなくて」
そっか。そうだったんだ。
でも。
私は宙に浮かぶジェダを見据えた。
「守ってくれなくてもいい。非難してきた人を一緒に見返すんでしょ。ジェダが傷ついている時は、私も守りたい。これからは頼ってね」
「セレナ……」
小さく呼吸を調えた。心臓が鳴りやまない。
ジェダが私に告白してくれた時も、こういう気持ちだったんだ。
怖くて、余裕がなくて、ものすごいエネルギーを消費する。それに今の状況を変えてしまうという臆病な心が露呈する。
でも私より先に、ジェダは未来を切り開いてくれた。だから私も告白できたんだ。
熱い感情が体内を循環していく。
「ジェダが勇気を出して、本当のことを教えてくれてありがと。……私も好きだよ」
早口になったけど許して欲しい。顔に宿る熱が抑えられない。
「早く下ろしてくれ」
ジェダの口元が緩んでいる。
「ま、まだ駄目。恥ずかしいもん」
ジェダの動きが止まったかと思うと、「その顔、反則だろ」と呟く。
ビリビリと空気が震えた。弾けた音が鳴り、平然とジェダはベッドに下りてきた。だけどジェダは「ごめん」と慌てて私から身を離す。
いや、それよりも。
「わ、私の魔法をあっさり……なんで解いちゃうの! 結界も魔法も最高峰なのに!」
「あのな、これでも勇者だ。好きなセレナより弱いのは嫌なんだよ。必死で習得したわ」
ジェダは震えを含んだ声で急かしてきた。
「今の言葉は本当か」
「……うん」
わざとらしい咳払いが聞こえる。少しの沈黙の後、ジェダの唇が照れたように、たどたどしく動いた。
こんな表情するんだ。
「セレナを少しだけでいいから、抱きしめたい。駄目か?」
「……ん、いいよ。許可を取ったのなら」
私は両手を広げた。
ジェダの表情に喜びが重なって、晴れ渡っていく。
「ありがとう、セレナ」
熱が寄り添い、大きな身体が私を包んだ。おずおずと腕を回す。ギシッとベッドが揺れた。
さっきと変わらない状況だけど、言葉を貰った今では嫌じゃない。
それに抱きしめて分かったこともある。ジェダって着痩せするんだ。靭やかに鍛えられたアウトラインを感じる。
「今日はこのままでいたい」
私は「えいっ」と掛け声をかける。ジェダの身体をベッドに倒して、覆いかぶさった。
「どう? こんなことされて怖いでしょ」
「まさか。すごい絶景」
私達はそっと笑みを深めた。ジェダが青い瞳で見つめてくるので、私は甘い雰囲気を消した。
素早くベッドから降りる。
「今日は自分のテントで寝るよ」
「何もしないから」
「だめー。御祖父様の遺言で、男の『何もしない』は信じるなって言われてるんだ」
「……そうか。まぁいいか。明日もある。旅は終わらないしな」
「ん、そういうこと!」
「おやすみのハグをしたい」
「夢の中でしてね。離れるのが寂しくなるから」
「セレナ、それって」
慌てて天幕から出た。ジェダが追いかけてくる。冷たい風が私の頰を撫でた。
思わず私の足が止まる。「捕まえた♡」なんてジェダがバックハグしてきたが、それどころじゃない。
何故か目の前にテントが二つが並んでいた。
レオとジュリアの天幕じゃん。ぬ、盗み聞きしてた?!
「ちょっとお!」
天幕を揺らすと「バカ!やめろ」とレオの焦った声と「心配だったのよ、ごめん」とジュリアの謝罪する声が聞こえた。
すりすりとジェダが身を寄せてくる。
「セレナ、もう俺の天幕で寝よう。こんなに近かったら本当に何もできない」
「何かするつもりだったの」
「まさか。……まぁキスしたいなって思ってたけど、今日はしないよ」
「!」
唇が空転する。綺麗な顔で微笑まれてジェダが壮絶に色っぽい……!
「ほら寒いから」
「ん……」
再びテントに入ると温かい空気が包む。ホッとしてベッドに横になった。
「無防備だな」とジェダの呟きに「信じてるから」と返事をする。
御祖父様ごめんね。遺言より、本当の私の気持ちを言ってもいい? 大切な人ができたんだ。
「何もしないならベッドに入ってきて。風邪は魔法では治せないから。今日は本当に寝るだけだよ」
「ゔっ〜〜」
「どうするの?」
「入る」
そっと背中の毛布が開く。冷たい空気の後に、温かい背中がくっつく。緊張で眠れないと思っていたけど、溶けて一つになる熱に私の瞼がとろとろと落ちる。
枕の下に何かがあった。そっと手を入れるとハンカチが入っていた。薄暗くてよく見えないけど私のハンカチに似てるなぁ。
寝ぼけまなこで取り出そうとすると、ジェダが「おやすみ」と毛布越しに抱きしめてきたので、私は「おやすみ」と返した。
明日はいつもと違うおはようが言える。
この関係が嬉しくて、私は毛布の中で小さく微笑んだ。
見下ろす碧眼が冷たい。私の返事を待たずにジェダはテントの中に入っていった。
ランタンの光が天幕内を優しく照らしている。簡易ベッドに寝かされて、ジェダが上から覆いかぶさってきた。
ゾワッとした感覚が背筋から這い上がる。好きな人でもいきなりは無理!
「そういうところが」
「なんだよ」
「そういう自分勝手なところが嫌なの!制御魔法かけて天幕に連れ込まれて……好きになるわけないでしょ!」
私は局地魔法を唱えた。ジェダの周りにある重力を反転させる。ジェダの身体が宙に浮いた。
「やめろ!」
「それはこっちの台詞。早く制御魔法を解いて。言っとくけどジェダに」
ギュッと目を閉じる。
「好きな人でも、許可なくこういうことされるのは嫌。気をつけてね」
一瞬の静寂の後、私の身体が自由になった。
「……俺を下ろしてくれ」
「やだ」
「なんでだよ」
「私も強引にされたから、お返し」
ジェダの瞳が見開く。青い海のように揺らいだ。
「俺が悪かった。未熟で、余裕なくてごめん」
鍛えられた身体を小さくして謝罪する姿に、私の緊張感が抜けていく。
本当は少しだけ震えていた。でも弱さをさらけ出すのは、貴族としてプライドが許さない。
「あともう一つ聞きたいの」
「何だよ」
「魔王戦が終わった時、回復魔法させてくれなかったよね。好きな人に拒絶されるの、怖くてつらいんだよ。……あれは、どういう意味?」
押し寄せる鼓動が耳元まで響いてくる。
本当のことを聞くのって、なんて勇気がいるんだろう。
「あれは何が何でも、セレナを守りたかったから。余計な魔力を消費させたくなくて」
そっか。そうだったんだ。
でも。
私は宙に浮かぶジェダを見据えた。
「守ってくれなくてもいい。非難してきた人を一緒に見返すんでしょ。ジェダが傷ついている時は、私も守りたい。これからは頼ってね」
「セレナ……」
小さく呼吸を調えた。心臓が鳴りやまない。
ジェダが私に告白してくれた時も、こういう気持ちだったんだ。
怖くて、余裕がなくて、ものすごいエネルギーを消費する。それに今の状況を変えてしまうという臆病な心が露呈する。
でも私より先に、ジェダは未来を切り開いてくれた。だから私も告白できたんだ。
熱い感情が体内を循環していく。
「ジェダが勇気を出して、本当のことを教えてくれてありがと。……私も好きだよ」
早口になったけど許して欲しい。顔に宿る熱が抑えられない。
「早く下ろしてくれ」
ジェダの口元が緩んでいる。
「ま、まだ駄目。恥ずかしいもん」
ジェダの動きが止まったかと思うと、「その顔、反則だろ」と呟く。
ビリビリと空気が震えた。弾けた音が鳴り、平然とジェダはベッドに下りてきた。だけどジェダは「ごめん」と慌てて私から身を離す。
いや、それよりも。
「わ、私の魔法をあっさり……なんで解いちゃうの! 結界も魔法も最高峰なのに!」
「あのな、これでも勇者だ。好きなセレナより弱いのは嫌なんだよ。必死で習得したわ」
ジェダは震えを含んだ声で急かしてきた。
「今の言葉は本当か」
「……うん」
わざとらしい咳払いが聞こえる。少しの沈黙の後、ジェダの唇が照れたように、たどたどしく動いた。
こんな表情するんだ。
「セレナを少しだけでいいから、抱きしめたい。駄目か?」
「……ん、いいよ。許可を取ったのなら」
私は両手を広げた。
ジェダの表情に喜びが重なって、晴れ渡っていく。
「ありがとう、セレナ」
熱が寄り添い、大きな身体が私を包んだ。おずおずと腕を回す。ギシッとベッドが揺れた。
さっきと変わらない状況だけど、言葉を貰った今では嫌じゃない。
それに抱きしめて分かったこともある。ジェダって着痩せするんだ。靭やかに鍛えられたアウトラインを感じる。
「今日はこのままでいたい」
私は「えいっ」と掛け声をかける。ジェダの身体をベッドに倒して、覆いかぶさった。
「どう? こんなことされて怖いでしょ」
「まさか。すごい絶景」
私達はそっと笑みを深めた。ジェダが青い瞳で見つめてくるので、私は甘い雰囲気を消した。
素早くベッドから降りる。
「今日は自分のテントで寝るよ」
「何もしないから」
「だめー。御祖父様の遺言で、男の『何もしない』は信じるなって言われてるんだ」
「……そうか。まぁいいか。明日もある。旅は終わらないしな」
「ん、そういうこと!」
「おやすみのハグをしたい」
「夢の中でしてね。離れるのが寂しくなるから」
「セレナ、それって」
慌てて天幕から出た。ジェダが追いかけてくる。冷たい風が私の頰を撫でた。
思わず私の足が止まる。「捕まえた♡」なんてジェダがバックハグしてきたが、それどころじゃない。
何故か目の前にテントが二つが並んでいた。
レオとジュリアの天幕じゃん。ぬ、盗み聞きしてた?!
「ちょっとお!」
天幕を揺らすと「バカ!やめろ」とレオの焦った声と「心配だったのよ、ごめん」とジュリアの謝罪する声が聞こえた。
すりすりとジェダが身を寄せてくる。
「セレナ、もう俺の天幕で寝よう。こんなに近かったら本当に何もできない」
「何かするつもりだったの」
「まさか。……まぁキスしたいなって思ってたけど、今日はしないよ」
「!」
唇が空転する。綺麗な顔で微笑まれてジェダが壮絶に色っぽい……!
「ほら寒いから」
「ん……」
再びテントに入ると温かい空気が包む。ホッとしてベッドに横になった。
「無防備だな」とジェダの呟きに「信じてるから」と返事をする。
御祖父様ごめんね。遺言より、本当の私の気持ちを言ってもいい? 大切な人ができたんだ。
「何もしないならベッドに入ってきて。風邪は魔法では治せないから。今日は本当に寝るだけだよ」
「ゔっ〜〜」
「どうするの?」
「入る」
そっと背中の毛布が開く。冷たい空気の後に、温かい背中がくっつく。緊張で眠れないと思っていたけど、溶けて一つになる熱に私の瞼がとろとろと落ちる。
枕の下に何かがあった。そっと手を入れるとハンカチが入っていた。薄暗くてよく見えないけど私のハンカチに似てるなぁ。
寝ぼけまなこで取り出そうとすると、ジェダが「おやすみ」と毛布越しに抱きしめてきたので、私は「おやすみ」と返した。
明日はいつもと違うおはようが言える。
この関係が嬉しくて、私は毛布の中で小さく微笑んだ。



