呪われた聖女は運命を覆したい

走って、走った。
足の動く限り私は走り、もうダメと思ったところで近くの部屋に入った。
上がった息をどうにか止めて、クローゼットの中で息を潜めた。
数分後、コツコツと革靴の音が廊下から聞こえてきた。
気がつかれませんように。
ただそう願って息を殺すだけ。
しかし、その願いは届かず部屋のドアが開いた。
「俺のかわいい実験台(モルモット)。出ておいで」
その声が私をさらに恐怖させた。
やっと逃げ出せたのにここで見つかるなんて、と絶望した。
そして、クローゼットの扉は開かれた。
視界に映る金色の髪の優しそうな青年は、悪魔のような男だ。
アラン・フローレンス・イリュシア第四王子殿下様。
私を実験台にしている男の名だ。
私はアラン様を押し除け走り出そうとしたが、机の足に引っかかり倒れてしまった。
恐怖でカタカタと震える。
そんな時、カタンッと音がして手元を見た。
それは床に転がってしまった神の遺物(アーティファクト)
私はその神の遺物(アーティファクト)に手を伸ばし願った。
「死にたくない…!!」
途端、まばゆい光が私を包み白い世界へと連れていった。
『我が主様。貴女様の願いは?』
そう声をかけてきたのは銀白の髪の美しい青年。
真っ白で王子様のような格好で、私の前に現れた。
「どういうこと…?」
『貴女様はこの神の遺物(アーティファクト)、タロットカードの主として選ばれました。主様はカードを使用し、運命を変えるのです。さあ、お望みを』
この運命を変えることができるのならば。
もう散々だ。
失うものなんてなにもない。
「運命を変えたいの…!お願い。私を過去に戻して!」
青年はニコリと笑った。
『主様のお望みとあらば。では、13歳の誕生日の前日に戻しましょう』
その瞬間、深く深く堕ちていった。
ーーーーー
朝、ハッと目が覚めた。
「はぁ…はぁ…。夢だったの…?あれ?」
夢から覚めた気分で、先程の出来事は夢だったのかと一瞬絶望した。
しかし、明らかに部屋が違った。
見覚えがある。
私が5年前まで住んでいた神殿の一室。
「本当に過去に戻れたの?」
疑わしかったが、目の前の鏡に映っている10歳前後の少女の姿を見て本当なのだと自覚した。
5年前の私の姿。
赤紫色の艶のある髪、濃い紫の瞳と、そのふたつの特徴は私のものであった。
ムク・マリーウット・スペネット。
それが私に与えられた名前で、スペネット侯爵家の次女だ。
そんな私の姿の横に、シュッと人影が現れた。
とっさに距離をとる。
『主様、警戒なさらないでください』
そこにいたのは先程まで話をしていた青年だった。
「貴方は…」
『私はアミューズと申します。このタロットカード、神の遺物(アーティファクト)の化身にございます』
神の遺物(アーティファクト)とは、神が作った道具とされている物。
化身は神の遺物(アーティファクト)を守護する者。
ただし、それは誰でも使えるわけではなく青き血(ブルーランク)上位者であることが条件だ。
青き血(ブルーランク)とは、使用できる神の遺物(アーティファクト)の強さを表すものと言われている。
青き血(ブルーランク)100位以上の者が神の遺物(アーティファクト)を扱える。
そして、私のランクは9位。
通常、ランクが100位以上だと肉体に異常を見せる。
けれど私が聖女であるおかげか、私の肉体は健康体そのもの。
そして、私は神の遺物(アーティファクト)の実験台にされていた。