テストが終わった翌日、わたしは新品の消しゴムを買って高橋くんに渡した。
お礼に焼いたクッキーと一緒に。
それ以来、わたしはずっと高橋くんのことが好きだ。
だけど、高橋くんと話せたのは消しゴムを分けてもらったそのときだけ。
前田さんやクラスの中心グループにいる女子たちのように高橋くんに気安く声をかけられたらいいと思うけど。
地味でおとなしくて真面目。
そんなわたしは、教室の中心でキラキラ楽しそうにしている高橋くんに話しかけることができない。そもそも、そんな勇気もない。
高橋くんだって、わたしみたいに地味な子より、前田さんみたいにかわいくて積極的な子のほうが好きだと思う。
高橋くんと前田さんは、美男美女でお似合いだ。
「わたしみたいな子は、このまま永遠に片想いなんだろうなー」
わたしがため息をついて教室から出ようとしたとき。
「そんなことないよ!」
誰もいないはずの教室のどこかから、女の子の声がした。
あまりにはっきりと聞こえてきた声に、ビクリとする。
誰? 誰もいないかどうか何度も確認したのに。
焦って辺りをきょろきょろと見まわしたけど、やっぱり教室にも廊下にも誰もいない。
空耳かな。
首を傾げていると、
「ここ、ここ。あたしの声、聞こえてるでしょ?」
と、また女の子の声が聞こえてくる。
「誰?」
眉を寄せながらもう一度教室を見回して、わたしは思わず悲鳴を上げそうになった。
閉まっているはずの教室の窓の外から、女の子がスーッとすり抜けてきたのだ。
「え、あなた、なに!?」
目の前で起こったことがあまりに非現実的過ぎて、頭がパニックになる。
ここは校舎の三階。
だから、ロッククライミングみたいに壁を伝い上ってくるか、宙に浮くかでもしなければ外からは侵入できない。
仮に、そのどちらかが可能な人間がいたとして、鍵のかかったしまった窓を通り抜けられるのは、魔法使いかマジシャン……、もしくは——……
「ユーレイ……?」
「よくわかったね。大セーカイ!」
青ざめて唇を震わせながら後ずさると、三階の窓をすり抜けて教室に入ってきた女の子が、にぱっと嬉しそうに笑った。



