黒板の上の掛け時計に視線を向けると、始業のチャイムが鳴る五分前だった。
なるべく意識しないようにしようと思うのに、隣の高橋くんの様子が気になってしまう。
「あ、わたし邪魔になる? 退散するね」
横目で様子を窺っていると、それに気付いた小春が、わたしにこそっと耳打ちして「あとでねー」と離れていく。
「え、ちょっと待って……」
今日に限っては、小春にそばから離れられたら困る。
慌てて呼び止めたけど、わたしの声は教室の雑音に掻き消されてしまう。
ため息をつくと、右隣で椅子の音がガタンと鳴った。
「武部さん、今日ノート……」
高橋くんに声をかけられたことに驚いた。
さっき気まずそうに目をそらされたから、今日はもう話しかけてももらえないと思っていたのに。
「え、ノート?」
「ケガ治るまで代わりに書くって約束だったでしょ」
ぽかんとしてつぶやくと、高橋くんが少し怒っているみたいな声でそう言った。
誰にでも優しい高橋くんが、そんなふうにトゲのある言い方をするところを今まで聞いたことがなかったからびっくりした。



