面と向かって話せないのに、じゃあなんで好きになったの、って?
それにはちゃんと理由がある。
じつは、わたしが高橋くんのことを好きになったキッカケは、一個の消しゴムなんだ。
中学生になって初めてのテストの日。
わたしは消しゴムを忘れた。
絶対入れたと思ったのに……
はじめてのテストで、思わぬトラブルにすごく焦った。
泣きそうになりながらテスト直前までカバンを探っていたら、
「武部さん、早くカバンを片付けないと、カンニングになるよ」
試験監督の先生に注意された。
「すみません……」
ますます泣きそうになって、ロッカーにカバンを入れて戻ってくると、出席番号順で前の席に座っていた高橋くんが振り向いて話しかけてきた。
「大丈夫?」
初めてのテストで緊張していたし、先生に怖い声で注意されたあとだったから、高橋くんの優しい声にものすごくほっとした。
「うん。わたし、消しゴム忘れちゃったみたいで……」
ボソッと小さな声で打ち明けると、高橋くんが「あー」とうなずいた。
「そんなの、早く言ってくれたらいいのに」
そう言うと、高橋くんは机の上に出していた消しゴムを定規で半分に切って、そのひとつをわたしの机にのせた。
「はい、はんぶんこ」
「え、これ……」
高橋くんが半分にした消しゴムは、どう見てもおろしたての新品だった。
「ごめん……」
とっさに謝ったわたしに、高橋くんがにこっと笑いかけてくる。
「がんばろうね、テスト」
それまで、高橋くんと話したことは一度もなかった。
それなのに、仲良くもないわたしのために新品の消しゴムを半分にして、笑顔で励ましてくれた高橋くんに、めちゃくちゃときめいた。



