わたしの秘密のキューピット


 迷ったけど、わたしは浅く息を吸い込んだ。

「あ、あの。高橋くん……!」

 思いきって話しかけた声が震えてる。

 だけど、わたしの呼びかけに振り向いてくれた高橋くんの表情は優しくて。そのおかげで緊張がほどけた。

「あ、あのね。もしよかったら、連絡先聞いていい?」
「え、おれと?」
「う、うん。え、っと、その……。ノート見ながら家で授業の復習するとき、わかんないところがあったら聞きたくて」

 ユーコがアドバイスしてくれた口実をそっくりそのまま使ったら、クスッと笑う声が聞こえてきた。

 ユーコがそう言えって言ったくせに。なんで笑うの。

 ニヤニヤしているユーコを横目にそっと見ると、今度は高橋くんにクスッと笑われた。

 え? わたし、なんか不自然だったかな。

 はずかしくなって膝の上で制服のスカートをぎゅっとつかむと、ギギーッと椅子が床を擦る音が聞こえてきた。

 うつむいた目線の先には、少し汚れた上履きのつま先とサッカーボールとスパイクが映るスマホのロック画面。

 ドキッとして顔をあげると、高橋くんと目が合った。

「いいよ」
「え?」
「教えて、武部さんの連絡先。ていうか、家でも授業のノート見返してるってえらいね。だから武部さん、頭いいのか」
「良くないよ。わたしは別に、フツー……」

 ニコッと笑いかけられて、ちょっと気まずかって。

 ほんとうは、授業のノートなんてテスト前くらいしか見返さない。

 高橋くんの連絡先を聞くための口実だから。