わたしの秘密のキューピット

 放課後の教室は、薄暗くて誰もいない。

 何気なく黒板の上の掛け時計を見ると、時刻は午後四時四十三分。

 わたしは高橋くんの机の前に立つと、近くに誰もいないことをもう一度よく確認してからゆっくりと椅子をひいた。

 床が椅子を引きずるギギーッという音がやたらと響いて、悪いことをしているわけでもないのに心臓がドキドキする。

 高橋くんの机の中は教科書とノートが数冊置きっぱなしになっていたけど、整理整頓されていて綺麗だった。

 机の中まで、爽やかな高橋くんのイメージ通りだ。

 ドキドキしながら、ラッピングしたクッキーを高橋くんの机の奥に押し込む。

 だけどすぐに思い直して、机からクッキーを一度取り出した。

 手前に置きすぎて高橋くん以外の人に見つけられても困るけど、奥に入れすぎて高橋くんに気付かれないのも困る。

 わたしは少し考えてから、教科書を取るために手を入れたときに気付くくらいの場所にクッキーをセッティングし直した。

 そのとき、静かすぎる教室にカチンと時計の秒針の音が鳴り響く。その音が、妙にわたしを驚かせた。

 こんなこそこそしてるところ、もし誰かに見られていたらどうしよう。

 バレンタインデーの放課後に男の子の机にクッキーを入れていたことがバレたら、きっとクラス中のからかいの的になる。

 気になってもう一度周りを確かめたけど、やっぱり教室にも廊下にも誰もいなかった。

 とりあえず、クッキーを渡すという任務は無事完了。

 だけど、ただ机にクッキーを入れるだけですごく緊張した。

 心臓が割れるかと思った。

 間接的でもこんなに緊張するのに、高橋くんに直接告白しようなんて無謀だったな。

 なんとか声をかけれたとしても、きっと「好き」の「す」の字すら言えずに終わってた。