わたしの秘密のキューピット


「あのさ、武部さん……」

 慌てて身体ごと顔をそらしたら、高橋くんに声をかけられた。

 ドキドキしながら振り向くと、高橋くんがわたしの右手首をためらいがちに指さした。

「それ、大丈夫? 治るのに二週間かかるって聞こえてきたんだけど……」
「あ、うん。平気だよ。捻挫なんだけど、全然たいしたことないから」

 包帯の巻かれた手首を背中に隠しながら笑うと、高橋くんが困ったように眉尻を下げた。

「治るまで二週間もかかるって、大変じゃん。今日も、授業中ずっと大変そうだったよね?」
「うん、まぁ……」

 そう言われて、五時間目の数学の時間に高橋くんとバッチリと目が合ったことを思い出す。

 高橋くんに見られているなんて、自意識過剰かと思ってたけど……。

 手のケガのことを気にして見てくれてたのも。相変わらず優しいな。

 その優しさが、わたしの胸をときめかせて嬉しくさせる。

 口元がニヤけそうになって下を向くと、少しの間が空いたあとに高橋くんが話しかけてきた。

「もしよかったらなんだけど……。武部さんのケガが治るまで、おれが代わりにノート書こうか?」
「え?」

 思いがけない提案にびっくりして顔をあげる。

 ぽかんと口を開けるわたしを見て、高橋くんが焦ったように頭の後ろを掻いた。

「あ、えーっと。おれ、あんまり字はうまくないんだけど、もし武部さんがよかったらって……」

 わたしから微妙に視線をはずして話す高橋くん。その仕草が照れているように見えて、胸の奥がキュンとした。

 高橋くんの優しさがすごく嬉しい。