わたしの秘密のキューピット


 高橋くんに向かって一直線に駆けていったのは、同じクラスの前田 莉乃(まえだ りの)ちゃん。

 サラサラの長い髪、大きくてぱっちりとした目に長い睫毛、笑うと片方のほっぺたにエクボができる前田さんは、クラスの女子の中で一番可愛くて、男子からも人気。

 ウワサによると、高橋くんと前田さんは幼稚園からの幼なじみらしい。

 付き合ってるわけではないみたいだけど、ふたりは仲が良くて、教室でもよく一緒にいる。

「莉乃、おつかれ。放課後にサッカー部のほうまで来るの、めずらしくない?」

 前田さんに腕をつかまれた高橋くんが、振り向いてにこにこ笑う。

「だって、今日バレンタインデーでしょ。これ、楓真の分のチョコ」
「いいの? ありがと」

 前田さんにチョコを渡された高橋くんが、きらりと目を輝かせる。そんな高橋くんの顔を見て、胸がズキッとした。

「あ、楓真だけズリぃな。莉乃ちゃん、おれにはー?」

 うつむくわたしの耳に、高橋くんと一緒にいた富谷くんの声が聞こえてくる。

「あるある。はい、これ」
「え、おれのやつ、楓真のよりしょぼくない? ラッピングも適当だし」
「だって、富谷くんにあげるのは友チョコだもん。楓真には、日頃からお世話になってるからね」
「うわ、差別だ。楓真ばっかりズルい。こいつ、既にもう本命チョコ五個以上もらってんだよ」
「富谷くんも、もうちょっとおとなしくしてたらもらえるんじゃない? おれには、おれにはー? って言ってくる男子がもらえるのは義理だけだよ」
「莉乃ちゃん、ひどい」

 少し離れたところから、前田さんと富谷くん、それから高橋くんの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 三人の会話を盗み聞いていたわたしは、すっかり落ち込んでしまった。

 高橋くん、前田さん以外からも五個もチョコをもらってるんだ……。

 そんなにモテる人に、わたしなんかがクッキーを渡せるわけない。どう考えても、お呼びでない。

 わたしは高橋くんに背を向けると、とぼとぼと歩き出した。