わたしの秘密のキューピット


 わたしはなるべくユーコのほうを見ないように、教科書を読む先生の声に集中しようとした。

 だけど、わたしがわざと無視していることに気付いたユーコが、机の上に座ったり、教科書やノートに息を吹きかけてページをめくっていたずらしてくる。

 隣の席では、高橋くんがまだ教科書を見つけられずに困っていた。

 ユーコと高橋くん、そのどっちもが気になって、なかなか授業に集中できない。

「気になってるなら声かけてあげなよ。チャンスじゃん」 

 高橋くんをチラチラと見ていると、ユーコがわたしの机に座って足を組みながら話しかけてきた。

 そういえばユーコは、さっきもわたしに「チャンスだ」と言っていた。

 どこが、なにがチャンス……?

「チャンスって……」

 おもわず声を出しそうになったけれど、すぐに今は授業中だと気付いてノートの端っこにシャーペンで文字を書く。

【チャンスって、どういう意味?】

 ノートの走り書きを見たユーコが、まだ机の中を探ってそわそわとしている高橋くんに視線を向けてニヤリとした。

「だーかーらー。高橋くんに声かけてみなよ。どうしたの? って」
【そんなこと、できるわけないよ】
「でも、困ってるよ。高橋くん。紗良ちゃんは、好きな人が困ってるのにほっとくの?」

 ユーコに言われて、わたしは高橋くんのことを好きになったキッカケを思い出した。

 そうだ。わたしは困ってるところを助けてくれた高橋くんのことが好きになったんだ。

 高橋くんは、困っていたわたしに消しゴムを切り分けてくれた。だったらわたしも、困ってる彼のことを助けてあげないと。

 でも、どんなふうに声をかけよう。