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午後四時四十四分。
靴箱の前でうろうろしている女の子の前に姿を見せると、その子があたしを見て口をパクパクさせた。
「あなたもしかして……おまじないのウワサ、ほんとうだったんだ……!」
こうやって驚かれるのは、何回目だっけ……
えーっと……そうそう、これで95回目。
さすがに、驚かれるのにも慣れてきた。
でも、今回の子は四時四十四分のウワサを知っててあたしを呼んでくれたみたい。
今回おまじないを試してくれたのは、生徒会長の先輩に恋をしている女の子。
彼女も同じ生徒会で書記をやってるんだけど、好きな先輩の前だと意識しすぎてツンとした冷たい態度をとっちゃう。
そのことで悩んでるんだってことは、すでに調査済み。
でも、あたしを呼んでくれたからには大丈夫。
先輩との仲がうまくいくように、しっかり協力するからね。
新しい友達に、にこっと笑いかけたとき。
『ユーコ……?』
ふと、聞き覚えのある声がした。
視線を向けると、そこには94番目にあたしを呼び出した女の子――紗良ちゃんがいた。
紗良ちゃんがぼんやりこっちを見てたから、ドキッとした。
おかしいな。
恋が叶えば、それと引き換えに、あたしは見えなくなるはずなのに……
『四時四十四分のキューピットに恋を叶えてもらったら、なにかひとつ自分の大切なものを渡さないといけない』
そんなウワサがあるみたいだけど、あたしは何も奪わない。
ただ、恋が叶うとおまじないをした女の子たちの記憶からあたしの存在が消えるだけ。
最初はちょっと悲しかったけどね。今はもう慣れっこだ。
だって、94人の恋を叶えるお手伝いをしてきたからね。
でも……もしかしたら、ひとりくらいはあたしのことを覚えててくれないかなって思うことがある。



