「ユーコ……?」
ハッとして振り向いたけど、もちろんそこには誰もいない。
自分が「ユーコ」という名前を口にした理由もわからない。
ユーコって誰だっけ。とてもよく知っていた名前だったはずなのに、なんだかピンとこない。
頭の一部分にだけ靄がかかったようで、思い出せない。
それは、わたしにとってとても大切な《なにか》だったはずなのに……。
突然、校舎のほうを振り向いたわたしを、高橋くんが不思議そうな目で見てくる。
「武部さん、どうかした?」
「うぅん、なんでもない……」
たぶん、気のせい。首を横に振って、高橋くんに笑いかける。
ありがとう。しあわせだよ。
誰に伝えるでもないけど、そんなふうに思って胸の奥がきゅっと熱くなった。



