「…いや、そもそも、コイツがぶつかってきて」
「はー?どうせ、おっさんがわざとぶつかったんじゃないの?」
空気が一瞬で張り詰める。
「…っ、クソガキが舐めやがって!好きにしろよ!」
怒鳴り声が路地に反響して、体がビクッと跳ねた。
怖い。まだ終わってない。
そう思った次の瞬間、その男は乱暴に振り返り、ドンッとわざと私にぶつかってきた。
視界がぐらりと傾く。
あ、倒れる――。
ぎゅっと目をつむる。
地面の冷たさと痛みを覚悟したのに、いつまで経っても衝撃がこない。
代わりに、ふわっと爽やかな匂いに包まれた。柔軟剤みたいな、どこかで嗅いだことのある安心する匂い。
「あいつ、ふざけんなよ」
すぐ近くで、さっきの男の子の声がする。
恐る恐る目を開けると、目の前に制服の胸元があった。
さっき路地から現れた男の子に、私は抱きかかえられていた。
また、助けてくれたんだ。そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと熱くなる。うれしい。
なのに同時に、申し訳なさと怖さが一気に押し寄せる。
迷惑かけちゃった。私のせいで巻き込んじゃった。
まだ手首はじんじん痛むし、心臓はうるさいままなのに、それでも彼の制服を掴む指先だけは、無意識に離れなくて。情けない。



