「じゃー、これは片付けような」
そう言って、尋くんは私の前にすっとしゃがみ込んだ。
迷いのない動きで、さっき私が脱ぎ捨てたスリッパを両手で揃えて持ち上げる。
その仕草があまりにも自然で、あまりにもスマートで、胸がどきどき、とまた騒ぎ出す。
やめてよ…そんなにかっこよくしないで。
心臓が忙しすぎて、もう限界なのに。
どうして私は、こんなにも振り回されてしまうんだろう。
髪で顔を隠したまま、そっと視線だけを上げると、しゃがんだままの尋くんと目が合った。
なーに?って、柔らかく笑う声。
近い。距離が近い。だめ、騙されちゃだめ。惑わされちゃだめ。
きっと、こんなこと誰にでもしてる。私だけ特別なわけじゃない。
そう自分に言い聞かせるのに、心は全然言うことを聞いてくれない。
優しく笑う目元も、少し伸びた前髪も、私を見上げる角度も、全部がずるいくらいきれいで、気づけば見惚れてしまっている自分がいる。
だめなのに。
それでも視線が外せなくて、胸の奥がじんわり甘く痛んだ、その瞬間だった。



