「だっ…だ、れかっ…」
喉を引き裂くみたいに、やっと声を押し出す。
助けて、って。
それだけでいいのに。
大声で叫ぶだけなのに。
どうしてこんなに難しいの。
ふっと周りを見る。人は、いる。制服姿の子も、スマホを見ながら歩く大人も、たくさんいるのに。
なのに、誰も立ち止まらない。誰も、こっちを見ない。まるで私だけ透明になったみたいに、世界から切り離されてるみたいに。
ああ、やっぱり。私の人生、こんなもんだよね。どうなってもいいか。もう、疲れた。
力が抜けそうになった、そのとき。
「おっさん、なにしてんの」
低くて、でもはっきりした声が、路地裏のほうから響いた。
「…っ、」
時間が止まったみたいに、空気が変わる。掴まれていた腕の力が、一瞬だけゆるむ。
そこに立っていたのは、ひとりの男の子。
「いや、この子が体調悪いっていうもんだから」
男はわざとらしく肩をすくめる。
「だからって、こんなとこに連れ込まなくていいだろ」
低くて冷たい声が、すぐ近くで返す。



