きみは硝子のゼラニウム





周りに人がいないわけじゃない。少し離れたところでは、同じ制服の子たちが笑ってるし、サラリーマンの人だって歩いてる。


なのに、どうして誰も気づかないの。

どうして、私の周りだけ音が消えたみたいになるの。



助けて、って言えばいいのに。叫べばいいのに。

頭ではわかってるのに、声が出ない。



怖い、恥ずかしい、騒いだら大げさって思われるかも、また私が悪いって言われるかも。



そんな考えばっかりが邪魔をして、喉の奥で言葉が凍りつく。


心臓がうるさい。涙がにじみそうになる。



嫌だ。こんなの、嫌だよ。


誰か、気づいて。



「…あ、や、やめ…」



震える声は、自分でも情けないくらい小さくて、風にさらわれそうだった。



「震えてるけど、大丈夫?ちょっとあっちで休もうか」



わざとらしく心配そうな声。さっきまでの優しさを真似したみたいな口調に、吐き気がする。


違う、優しくなんかない。怖い。


手首を掴む力がさらに強くなって、体ごとぐいっと引っ張られる。



視界の端に、人気の少ない路地裏が映る。


暗い。細い。逃げ場がない。