さっきまで穏やかだったはずのその人の口元が、ゆっくりと歪む。
別人みたいに、にやり、と。
背筋が、ぞわっと粟立った。
「……え?」
次の瞬間、ぐいっと腕をつかまれる。
強い。思っていたより、ずっと。
「…っ、あの」
喉が、急に細くなったみたいに、言葉がうまく出ない。
「ちょっと電車くるまで相手してくれない?お嬢ちゃんかわいいし、ぶつかられてラッキーだなあ」
耳元に近づく声は、さっきの優しさなんて欠片もなくて、ねっとりしていて、気持ち悪い。
「……っ、」
手首をぎゅっと握られる。
痛い。
細い骨がきしむみたいに、じわじわと痛みが広がる。
やだ。怖い。
今すぐ走って逃げたいのに、足が動かない。
振りほどこうと力を入れても、びくともしない。



