きみは硝子のゼラニウム






そんなことをぐるぐる考えながら歩いていたのが、いけなかったんだと思う。



「……っ!?」



ドンッ、と鈍い衝撃が額に走った。


視界がぐらりと揺れて、思わずよろける。


前から来た人にまったく気づいていなかった。


額を押さえながら顔を上げると、目の前にはスーツを着た中年の男性。


きちんと整えられた髪、無駄のないネクタイ、いかにも厳格そうな雰囲気に、心臓が一気に跳ね上がる。



「ご、ごめんなさいっ。私の不注意でっ」



…やばい、怒られる。


サーッと血の気が引いていくのがわかる。


あぁ、もう。ボーっとしてるから。ちゃんと前見て歩いてればよかったのに。



私はぎゅっと目を閉じて、深く頭を下げた。

怒鳴り声が飛んでくるのを覚悟して、肩に力を入れる。

その瞬間、ぽん、と肩に手が置かれた。



「……っ」



ビクッ、と肩が跳ね上がる。体が勝手に反応する。


怖い、って思ってしまった自分が、情けなくて、恥ずかしくて、でもやっぱり怖くて。



「お嬢ちゃん。謝らなくていいよ、わざとじゃないんだし」



頭の上から降ってきたのは、さっき想像していた怒鳴り声なんかじゃなくて、驚くほどやわらかい声だった。


ほっと、胸の奥の氷が溶けるみたいに力が抜ける。



よかった、と、思わず安心しきった顔で見上げた、その瞬間だった。