何も言えないまま、ただ呆然としている私を置いて、「……じゃあ、俺下で寝るから」って、尋くんは何事もなかったみたいに立ち上がる。
どうしてキスしたの?なんて、聞けるはずもなくて、ただ見送ることしかできない。
「ひな、そんな顔しないで」
「え?」
「俺がそばにいないと寂しい?」
くすくすと笑いながら、そっと頬に触れてくる手。
その温もりに、さっきの距離が一瞬で蘇ってきて、また胸がぎゅっと締めつけられる。
そんなに顔に出てたのかなって恥ずかしくなるのに、その手が離れてほしくなくて、矛盾した気持ちに自分で戸惑う。
すき。どうしても、すき。
今なら、言えるかもしれない。
さっき遮られた言葉の続きを、ちゃんと――。
「あの花ってカスミソウ?」
突然、尋くんが視線を逸らしたままそう言って、私は一瞬思考が止まる。
「え?そ、そう」
棚の上の花瓶に挿してある、小さくて白い花。



