ふと、さっきのことを思い出す。
腕をぎゅっと掴まれた感触。あの手の気持ち悪さと痛むくらいの強い力が、まだ手首に残っていて、思い出すたびに体が小さく震える。
「…っ、あ」
突然、胸がざわついて、怖くて、足が止まってしまう。
遠ざかっていく背中を見つめながら、待って、って声をかけたいのに、喉がつまって出ない。
あー、もう。意気地なし。弱虫。こんな自分、大っ嫌いだ。
うつむいて、さっきぎゅっと掴まれた手首の感触を、ぎゅっと握り返す。
「後ろ振り向いたらいねーし、びびったー」
突然の軽い声。
思わず顔を上げると、彼が焦った顔で立っていた。
も、戻ってきてくれたの?
「…な、なんで?」
「なにが?」
「どうして、戻って、」
「いや、最後まで送り届けるだろ、フツー」
肩の力を抜いた、当たり前みたいな言い方。
でも、私の中ではフツーじゃない。普通じゃない。
こんなふうに誰かが、私のことをちゃんと気にかけてくれるなんて、普通じゃない。



