【完】きみは硝子のゼラニウム





まだ、話したりない。好きな食べ物とか、苦手な教科とか、そんな表面的なことじゃなくて。

どうして私にこんなに優しいのか、とか。私のこと、どう思ってるのか、とか。

肝心なことを、まだ聞けていないし、私だって、まだ言えていない。



コップに入った冷たい水を一口飲む。

氷はほとんど溶けかけていて、さっきよりぬるいのに、それでも喉を通ると少しだけ現実に戻される。

震えそうになる手を、ぎゅっと握りしめた。



「…なんで、私のことを好きになったの?」



ほんとは、ずっと聞きたかった。胸の奥で何度も何度も形になりかけて、そのたびに怖くなって飲み込んでいた言葉。


私は、私が嫌いだから、自分のいいところなんて、ひとつも思いつかない。だから、なんで好きになってくれたのか、本当に分からない。


尋くんは、んー、と小さく唸って、一瞬だけ目を閉じた。

そして、ゆっくり目を開けて、まっすぐ私を見た。



「なんで?なんでって言われても…一目惚れとしか言いようがないな」



その言葉と同時に、じっと視線を逸らさないまま、私の前髪に指先が触れる。

サラッ、と軽く整えるみたいに撫でられて、額にかすかに触れた温度に、心臓が大きく跳ねた。