シェヘラザードに捧げる物語




 所長は俺と向き合って、優美なカップに口をつけた。


「……そこまで常識はずれなことはしないでしょう。娘の評判に傷がつくのを恐れるはずです」

「そうね、普通はね」


 でもね、と所長はカップを置いた。


「普通は、破談した娘に一日と経たずに男を当てがおうとはしない」

「バレてましたか……」

「私にも連絡が来たの、うちの娘とどうですかって」


 所長が後れ毛を撫でる。俺は窓の外へと遠い目を向けた。


「はっきりそう言ったわけじゃないわよ、あくまでも匂わせたってだけ」

「俺もです」

「……初めてご両親に会ったとき、どんな感じだった?」

「どんな感じ……」


 俺は鼻の頭を掻きながら記憶を呼び起こす。涙声の照屋から連絡を受けて、事務所の皆に送り出されて、ホテルの控え室で原嶋さん一家と会った。

 そのときの二人は。


「冷静でしたね、もっと取り乱してるのかと」


 礼服の二人は落ち着いて俺と受け答えをしていた。