シェヘラザードに捧げる物語




「それはありがたいな」

「ケーキって基本的に生ものだからね」


 私は口の中が乾くのも構わないで続ける。


「三段目は子どもが生まれたり、結婚一周年記念に食べるんだって」

「そんなに保つのか……」


 目を丸くしている大賀くんに、私は笑って首を振った。


「昔のイギリスの話だよ」


 昔の涼しいイギリスならまだしも、温暖湿潤な現代日本では長期保存は厳しい。

 なのでどうしても保存しておきたい場合は、外側のシュガーだけをとっておくしか方法がない。

 そう語ると、大賀くんは「それでも保存しておくって発想がすげぇよ」と顎を撫でた。


「どうしても日本の気候は食べものが傷みやすいからね」

「特にケーキなんて当日に食べないと腹壊すしな」


 宴会の仕事で一番恐ろしいのは食中毒だ。特に私のようにホテルに勤めている人たちは、常に戦々恐々としている。


「食中毒の損害賠償とか、担当したことある?」

「俺はないけど、先輩が担当したのを勉強させてもらったことならあるな」